艦隊集結

JTF-31<< 脊振>>、会議室




『おうおうおう!不満自体はぎょーさんあるで』



 統合任務部隊が集結したのは<<背振>>が佐世保を出航して2日経ってのちの洋上であった。そこで任務部隊指揮官の深堀は、鳩首会議を行いたいと各艦艦長、そして陸軍の神幸軍団長を背振に集合させ、忌憚のない意見を期待している。と、会議を開始した途端の第一声がこれであった



『早速の意見提起、助かるよ十文字艦長。改善できる所は善処したい』



 勢いの良い関西弁。方言自体は学校の時分に矯正させられるのだが、あえて使う者も多々居る。統率に於けるイメージの構築戦略とも言えるだろうか



『なら、手っ取り早いところで言うとやな。なんで旗艦を<<足柄>>(うちのフネ)にせんのや。指揮官が居るべきは一番情報が集まるところであるべきやないか』



 十文字が指揮する<<足柄>>、日本に於いて初めてフェイズドアレイレーダーである水鏡を主体としたイージス武器システムと同様の領域防衛システム(これをもってADSと呼ぶ)を搭載した妙高級防空巡の3番艦にあたる彼女は、統合任務部隊を構成する艦艇の中では一番の探査能力を持ち、かつ防空力を持つ。十文字が言う事は間違いではない



『そもそも統合運用やって言うんなら、艦隊の頭が危険な前線に行くんはお門違いちゃうんか?指揮官陣頭はわからんでもない。せやけど一歩下がって指揮をとってナンボやろがい』

『ふふ、これは手厳しいな。こう言った意見をフィードバックするのも任務のうちだ。十文字艦長と同じく忌憚のない意見を出して欲しい』



 と、嬉しそうに深堀は周りを見渡す。呼び水としては十文字はちと刺激が強すぎたのかもしれない



『その件に関しては<<背振>>艦長として私から反論させていただくが、宜しいか?』



 空溝が深堀を見て発言の許可を求める。無論深堀に異論はない。が、本人でもない人物が出て来た所にカチンと来たのか、十文字は語気を強める



『なんや、嫁さんみたいにしゃしゃりでてくるやないけ。こう言う時は折角参謀がおるんや、先任参謀にでも答えさせ・・・たれって・・・』

『・・・ん?』


 

 十文字が視線の先を向けた方向には、チョコレートの包み紙がうず高く、とまでは言わないが積み上げられている。会議用に出されたお茶と茶菓子のそれであるが、バリボリ食べるわけにもいかないのでチョコレートが主ではあったが、普通はそこまで手は付けない。手は付けないのだが、そこに居るのは普通の人間ではなかった


『ああ、空溝艦長はまさに深堀司令の女房役だぞ。間違いない』

『なんでやねん!聞きたい所はそこちゃうわ!』



 切れ味も鋭く、席を立ち上がってのツッコミが飛ぶ



『大体会議中やぞ、なに司会側におるような奴が菓子に手をつけとるねん!聞いとれや!』

『聞いているぞ。それに十文字艦長は知らないのか?頭を使うときには糖分があると良いんだ。みんなも手をつけてないようだけど、美味しいぞ。食べないで残すなんてもったいない』



 こっ、コイツ。この艦隊の長が集まる会議をブレインストーミングまで落としよった・・・と、十文字のたまげた顔から察しつつ深堀は苦笑した



『すまないな、十文字艦長。こう言う参謀なんだ。みんなも、ざっくばらんで構わな』

『コホン!』



 話の途中で空溝がわざとらしく咳をする。それにも苦笑して深堀は黙った



『十文字艦長。尾栗参謀については艦に来てからまだ日も浅いため、僭越ながら回答させて頂いても宜しいか』

『・・・正直すまんかった』



 毒気を抜かれた十文字が力なく椅子に座りこむ。ツッコミが追い付かない。むしろ空溝にはシンパシーすら感じる。ツッコミ役は大事にせなあかん。身体がもたへん



『いえ。で、<<背振>>を旗艦にする理由になりますが、本艦はヘリを搭載しそのうち1機はAEW・弾着観測ヘリとなっております。それにあわせての戦術リンクシステムを搭載しており、哨戒ヘリのみの搭載になる各艦よりシステム上の優位があります。これは<<足柄>>がヘリを搭載しない艦であるのでリンクのみになるのとはかなり仕様が異なります』

『となるとあれや、AEW仕様の海鳥がある艦が旗艦になるべきやと』



 <<足柄>>から始まる新式の8in砲搭載巡は確かに有力な火力プラットフォームだ。しかし、装甲巡や戦艦といった火力プラットフォームに求められるのは水平線の向こうへの火力発揮だ。そのために管理する領域が(地上を含めて)比較的広く持たされている。ただ単に対空レーダー準拠の管理範囲であればADS艦に<<背振>>は完敗するが、地上域を含めるとそれはまた違ってくる。そして今回陸軍部隊が参加しているとなると回答は明快になる



『仮にですが、高雄級以降の艦(フネ)であれば搭載機があるので多少システムを弄れば短期間で対応は可能でしょう。それなら旗艦任務を譲っても構わない所です。ただ、その代わりと言ってはなんですが、相当その艦は護衛艦としての気軽さ故、酷使されかねないのもあります』



 腰が軽いと言う事は、好きなように動かし過ぎるきらいがある。また、十文字艦長は気に入らないだろうが周辺のABC三国は本艦と同じだけの規模の艦を持つのにそれに対応しないのは礼儀に欠けるととられかねない



『まあ、そっちに考えがあるのはわかったからええわ。とりあえずは黙っといたるわ』



 と、まだ不満そうではあるが、十文字は腕組みをして椅子に深く座り込んで黙る。そんな中、おずおずと手を挙げる人物がいた



『園田艦長。どうぞ』

『はい。<<夕雲>>の園田です』



 この優男風の園田艦長が預かるのは秋雲級2番艦の<<夕雲>>で、この艦は水鏡を小型化して搭載した秋月級と違ったアプローチとして僚艦とリンクして武装を利用できる。また近接防空に於いて撃墜効率を向上させる能力を持った艦だ



『そもそも論になってしまうかもしれませんが。艦隊運用として防空戦隊を設立する形でよかったのではありませんか?過去には水雷戦隊という例もありますし、勿論、<<夕雲>>を預かる身としては宮様が提唱したこの統合任務部隊制で僚艦が同級艦で編成される駆隊制と違って本艦の能力が十全に発揮できるというのは理解できますが』

『ふむ。これに関しては私が回答しよう』



 そういって深堀が口を挟んだ。深堀自体は高松宮に一番近いとされてるから、周囲から直接その意図を聞き及んでいるとみられている。実際はそうではないのだが、難儀なものである



『結局のところは指揮系統の単純化につきる。水雷戦隊を模した防空戦隊となると結局のところ司令部を置くことになるな。そもそも例として挙げた水雷戦隊にしても、駆逐隊が集まって指揮巡がいる形だったと記憶している。そうなると、戦隊司令部、その下に隊司令、そして各麾下の艦艇となる。翻って我々を見て欲しい』

『なるほど。駆隊司令部に毛が生えた程度というわけですね』



 実際、今回の件で人事は殆ど動いていない。これが常設の防空戦隊とどうなるだろうか。いや、それよりもこれがもたらすのは



『この任務部隊制度が進めば隊司令などのポストが減って御役御免にさせられそうな気がするのですが』

『いえ、そういうことはありませんよ。あくまで臨時的な編成です。宮様も大きな艦隊で行動する場合は従来通りの編成のままが良いと言っております。仮に常態化しても各駆隊や戦隊から転入された形である以上逆説的ではありますが司令部が無くなるわけではありません』



 そういう不安も出てくるものかな、とも思う。しかし、第3艦隊が即応艦隊として活動海域が広がるにつれ各駆逐隊と戦隊の司令部はその任務の過重が増してきていた。分隊での活動も常態化している。その負担軽減にはなるはずだ



『お茶のみ話で終わらせてもらうと困るのだ』



 と、ここで陸軍の神幸軍団長が声をあげた。手元には作戦資料がばらまかれている



『計画のうちに、どうしても看過できないものがあるのだ!』

『と、申しますとどういうことでしょうか』



 深堀は相手が指揮下であるとはいえ、陸軍という別組織にいる人物なので丁寧に聞き返す。あまり無茶なことは書いていなかった覚えではあるのだが



『兵員の伏臥について、輸送船の飛鳥で行うとなっているのだ!こんなことはあってはならないのだ!』

『しかし、被災地のインフラを使うわけにもいかないでしょう』



 当初計画では兵員輸送船の飛鳥、並びに車両輸送船の麗神はプエルトモント市の中心から見て南西に位置するオクシアン港に停泊し、ロスラゴス大学に近傍するチンキウエサッカースタジアムの駐車場および付属のテニスコートなどに物資車両を駐機、兵員は船舶で寝起きをすることとしていた。これは現地のインフラに負担をかけないためでもある



『これでは逆に、我々が尻尾撒いて逃げようとしているようにとられかねないのだ。これは現地での信用問題にかかわるのだ。被災住民に寄り添う事が必要なのに、海軍さんはそれをわかっていないのだ!』



 神幸の考えでは、より現地に根差した復興支援を考えていたのであろう。しかし、当人が言うように逃げやすいようにはしていた。それは現地の治安が相当悪化する場合も想定されていたからだ。戦闘団は戦力は揃っているとはいえ、規模的に3600名程度の集団に過ぎない。一度事が起きると揉みつぶされてしまいかねない



『・・・では、代替案としてどこを宿舎にするおつもりなのです?』

『簡単なのだ。となりの学舎を使えばいいだけなのだ。今学舎を学徒が利用する必要はないのだ。今の時点では総動員で地域の労働力として被災地整理にあたらせる方が優先なのだ・・・親御さんにとってもだ』



 どうだろうか。あまりにも現地に近くなりすぎてしまわないだろうか、おそらく神幸が言っている事は間違いではない。腰を入れた支援だと思ってもらうには現地で寝食をしているのを見せるのは大きい。しかしそれは兵員に対してリスクを背負わせる事になるはずだ



『わかりました。部隊からの発案として外務省から現地政府の方に提案してみます。現地の主権がある以上、その許可が下りた場合はその旨やっていただいてよろしいかと』

『結構なのだ』



 案が受け入れられたことに満足してか、神幸は椅子に深々と座りなおす。そういう意味では空溝と以前話した人物評とそう違いは無いのだろうと確信する。それから二三、細々した問題を確認して会議は解散となった。各員がそれぞれヘリで運ばれて各艦に戻っていく



『一筋縄ではいきそうにありませんね、司令』

『宮様的には七転八倒してほしいらしいからな。嚆矢濫觴(こうしらんしょう)、まだ始まったばかりさ、艦長』


 会議室に残った二人が苦笑しながら言葉を交わす。そう、まだ艦隊は出航したばかりなのだから

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