第8話 最後の望み
もう、会えないかもしれない――
そう思って諦めていたけれど、最後の望みをかけて、彼女に会いに行くことを決めた。
訪れる前日、電話をしようとしたけれど、彼女は体調不良でご飯も食べられないと言っていた。
このまま行ってもいいのか、正直、迷った。
でも、たとえ会えなくても、彼女の町まで足を運んだという事実が、自分を慰めてくれると思った。
当日、彼女に連絡を入れると、少し元気になったとのことだった。
高速バスに乗って4時間半、飯田へ。
タクシーでお見舞いに行こうと思っていたら、なんと彼女が車でバス停まで迎えに来てくれた。
少し回復したようで、以前ふたりで訪れた思い出のラーメン屋でランチをとることに。
お互いのラーメンを分け合って食べた。
久しぶりに、彼女の笑顔を見ることができた。
桜がちょうど満開だった。
近くのホームセンターでレジャーシートを買い、桜で有名な公園へ。
青空の下、彼女をそっと抱きしめた。
何かが、静かに、でも確かに溶けていくような感覚だった。
きっと、彼女も同じ気持ちだった――そう信じた。
そのあと、枝垂桜で有名な近くの廃校を訪れた。
珍しく、彼女の写真を何枚も撮った。
もしかしたら、無意識に「最後」を意識していたのかもしれない。
夕方、ホテルへ。
夕食までの時間、ふたりで愛し合った。
そして、思い出が詰まった、何度も通った回転寿司へ。
昨日は何も食べられなかったと言っていた彼女が、今まで見たことがないくらい皿を積み上げた。
その姿を見て、心からホッとした。
翌日、お互いに仕事があるため、ホテル近くのコンビニまで送ってもらって別れた。
――まだ、もう少し一緒にいられるかもしれない。
そんな希望を胸に、飯田をあとにした。
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