第4話 夜明けの街、ざわめき


「……はぁ」


夜明け前、コンビニの裏口で息をつく。

バイト中はずっと気まずかった。

店長に頭を下げまくり、なんとか許してもらったものの、ぎこちない空気は最後まで変わらなかった。


「今日、やたらお客さん多かったな……」


店内のテレビで流れていたニュース。

ネットじゃなくても、異変の噂は街を駆け巡っていた。


『世界各地でダンジョン出現』

『政府、非常対策本部設置』

『封鎖作業が完了』


そんな見出しが、絶え間なく流れていた。

亮太はリュックを背負い、まだ薄暗い空の下を歩き出した。

ひんやりとした風が、夜勤明けの身体に心地よかった。

(……結局、俺には何も関係ないよな)

そう思いながら、ポケットに手を突っ込む。

しかし、どこか心の奥がざわついていた。


あのステータス画面。


誰にも見えない、青白い光のウィンドウ。

――本当に、俺だけなのか?


そんな不安が、胸を締めつける。

コンビニ前の大通りは、珍しく人通りが多かった。

スマホを片手に、画面を見つめながら歩く人々。

中には、興奮した様子で友達と何かを話している若者たちもいた。


「マジでステータス出たって!」

「いや嘘だろ、それ。スクショあんのかよ?」


断片的に聞こえる会話が、亮太の耳に飛び込んでくる。

(ステータス……? 俺以外にも……?)

思わず足が止まった。

しかし、次の瞬間、背後からチャリに乗った中年男性が通り過ぎざまに叫んだ。


「危ないだろ! ボーっと立ってんな!」

「す、すみません!」


慌てて頭を下げ、足を速める。

まだ夜明け前の静かな街。

それでも、普段とは違う、妙な熱気が漂っていた。


家にたどり着き、玄関の鍵を閉めると、どっと疲れが押し寄せた。


「……寝るか」


靴を脱ぎ、リュックを放り投げ、ベッドにダイブする。

シーツの冷たさが心地よい。

目を閉じながら、亮太は今日一日のことを振り返った。


ダンジョンの出現。


自分だけに見えるステータス。


そして、街中で囁かれる噂話。


(……でも、俺には関係ない)

亮太は自分に言い聞かせた。

どこか、現実味がないのだ。

自分が特別な存在になるわけがない。

そんなの、漫画やラノベの中だけの話だ。


「……寝よ」


ぽつりと呟き、毛布をかぶる。

窓の外では、朝焼けがゆっくりと空を染め始めていた。

世界が、少しずつ変わっていく音が、かすかに聞こえたような気がした。

――それでも、亮太の目は、すぐに眠りへと落ちていった。

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