第15話 衆

 怒涛の訓練開始から数十分。

 元町はめげることなく、練習を続けていた。


 一度は夢の世界へと向かった清戸だったが、寝息をたて始めてすぐ、担任が呼びにきた。クラス委員の仕事も任されているらしい。あいつ、忙しいなぁ……。


 部室には私と元町の二人。

 休憩がてら下に降りて練習を見ていたら、ストップウォッチを渡されていつの間にか計測担当になってしまった。

 

 しかし元町の根性には驚かされる。


「そろそろ休憩挟んでも良いんじゃない?」


「いえ! まだ全然大丈夫です。やらせてください!」


 元町は以外にも体育会系だった。


「ねえ…、そろそろ休んだら?」


「いえ! まだまだ!」


 勢いづいた元町は止められない。

 こんなやり取りを繰り返し、そろそろ練習開始から一時間になろうとしている。


 動きっぱなし、タイヤを持ち上げたり下ろしたりで一時間。ずっと筋トレをしているようなものだ。体力お化けだな……。

 

 清戸にアドバイスを貰って以降、ドンドンタイムが短縮している。さすがに制限時間内に収まるにはもう少しかかりそうだけど。


 私も負けていられない。そんなことを思っていると、入口の方から聞きなれない声がした。


「清戸はいるかしら」


 鋭くよく通る声質だ。清戸の声も鋭いけれど、それとは対極に感じる。清戸の声を氷とするならば、炎といった感じ。


 声の方を見ると、そこには一人の少女が立っていた。

 赤っぽい色の髪をツインテールにして、貴族っぽいのかゴスロリなのか、とにかく世界観強めのファッションを身にまとっている。


「ちょっと前までいたんですけど。今は本棟にいるかも」


 私が答えると、少女は「そう」と言って周囲を見渡した。

 すると後ろから、似た雰囲気の少女たち三人がぞろぞろと入ってくる。

 これが類は友を呼ぶってやつですか…? 不気味なんですけど…。


「何ここー?」


「ボロくない?」


「廃墟じゃん」


 気だるそうな三人衆は、口々に言いたい放題である。

 おそらくこの集団のリーダー的存在は先に入ってきた赤髪ツインテールの彼女だろう。

 他の三人は、連れてこられたといった感じだ。


「ところであなた達、何してるの?」


 不思議そうに私と元町を見る赤髪の少女。


「た、タイヤローテーションの練習です」


 か細い声で元町が答える。

 少女達は一瞬間の抜けた顔をしたと思ったら、大声で笑い始めた。


「アッハハハハハッ! そんな簡単なこと、練習する必要ないじゃない!」


 何だこいつら。 簡単かどうかなんて人によるし、あんたらに関係ないでしょ。感じ悪い…。


「時間内に終わらないので…」


 元町、こんな奴らとまともに会話する必要ないよ。


「ええっ! まさかあの余裕たっぷりの制限時間内に終わらない人がいるなんて。整備士向いてないんじゃない?」


 ますます大声で笑う少女達。

 こいつら何様なんだ? 

 懸命に頑張っている元町の姿を見ていたから、余計に頭にくる。


 当の本人は苦笑いでこの場をやり過ごそうとしている。

 無理やり作った笑顔が私の胸を締め付ける。

 ダメだ。勘弁できない。


「……あのさぁ!」


 私が言葉を発した直後、聞きなれた透き通った声が耳に届いた。


「向いているか向いていないかは、あなたが判断することではないわ」


 振り向くと、いつも以上に鋭い目つきをした清戸が立っていた。

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