Episode 14 称賛

 軽く巻かれた赤色の長髪がふわりと舞って、仰向けに寝転がった私の視界を塞ぐ。

 

「流石、というべきかしらね」


「いやもう全然。まだまだだよ、ホントに」


「いいえ。貴方には私の賛辞を受け取る義務があるかしら。称賛とは相手を認めるという意思。それを拒むのは生命の道理に反するとは思わない?」


「……ありがとうございます」


「それで良いのよ」


 満足気に笑ってみせた火の精ことカセイ。

 その笑顔はまさしく精霊のそれで、とても華麗だ。


「私、鍛冶のことはさっぱりでも、火の扱いの見る目はある方よ」

「それは光栄なことで」

「何よその返事。……はぁ。貴方はもっと、この私に気に入られたという自覚を得るべきね」


「やれやれだわ」と首を振って、呆れ顔をする彼女。

 そんなことを言われようと、称賛に対する正解の答えを出せるほどの気力は、今の私には残っていなかった。

 


「あーダメだ! このままじゃ寝てしまう!」


 勢いに任せて、がばっと起き上がる。


「ごめん、カセイちゃん。私、今日はもう終わるね。また明日来るよ」

 

「終わる……帰るってことね。もう行ってしまうの?」


「ここ数日、ろくに寝てないからなぁ……。流石にそろそろ部屋のベッドで寝たい……。いつの間にかまた夜になってるし」


「そ。なら私はここで眠りにつくとしましょう」


「え、ここで寝るの? というか寝れるの?」


「精霊は己の根源をとことするのよ。それとも何か問題があるのなら場所を変えるけれど」


「うーん、大丈夫だとは思うけど。一応、ここ人に借りてる場所だから、あんまり変なことはしないでね」


「心得たわ」


 ひらりと舞うように髪を揺らして。

 私たちは別れのあいさつをする。


「それじゃ、おやすみ」


「ええ、おやすみなさい」




「……」


「……」


 鈴虫の音がやけに大きく聞こえた沈黙。

 暗闇の中で光る工房。その更に中で、二人は静かに見つめ合っていた。


「え? 帰らないの?」


「ログアウトのやり方分かんない……」


「ろぐ……? 意味が分からないわ」



 とりあえず師匠の帰りを待つことになった。

 結局、カセイのことはその場で師匠に紹介したし、ログアウトに成功して数日ぶりにベッドに寝転がるまで1時間以上待つことになってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る