Episode 8 再開
いつの間にやら日も跨ぎ、登った太陽が再び落ち込んだ頃。
私は床に膝をつき、深々と頭を下げていた。
「ほんっっっとぉに、すみませんでした!」
「別に気にせんでええって!」
人の工房でぐっすり寝こけてしまい、ログインしたキャシーさんに起こされたという現状。
冷や汗が滝のように流れている。
「言ったやん、好きにつこてええって。鍛えていようが寝ていようがかめへんかめへん! あの素材やってようけ余っとうヤツやし」
その優しさに、ますます頭が上げられない。
と言ってもキャシーさんのほうは、〈皮鉄〉のほうがよっぽど気になるみたい。
金床に置いてあったそれを見て、感嘆の声を漏らした。
「にしても、すごいなぁコレ」
「……ありがとうございます」
「これは……〈心鉄〉、か?」
「! それは〈皮鉄〉ですけど……よくご存知で」
彼女から専門的な用語が飛び出て、正直驚いた。
ゲームでは鍛冶師と言えども、リアルでは専門外だと言っていたから。
「いやいや、付け焼き刃やからこんなん」
頬をぽりぽりと引っ掻いて、なんだか照れ臭そうにして言った。
「初めての弟子やからな。まあちょっと、うちも色々調べてみてんけど……」
「師匠……!」
「もう全っ然! わからんことばっか――って、なんや! 急に抱きつくな!」
感極まって師匠に抱きついてしまった。
「師匠! 私、一生ついて行きます!」
「わかった、わかったって! ええから離れんかい!」
◇
「ところで師匠、ご相談があるんですが」
「なんや急に改まって。またベタベタするんとちゃうやろうな」
「い、いえ。……その、柄と鞘をどうしようかと悩んでおりまして」
「あーな」
刀の持ち手にあたる
他にも
刀身はもちろんのこと、これらのアイテムは刀に必要不可欠だ。
無ければ刀として完成しない。
もちろん、鍛冶師にそんなものが作れるはずもない……。
ならばどうするのかというと。
それぞれ専門の職人がちゃんといるんだよねこれが。
とはいえ現実世界の話であって、そんなニッチな職業がこの世界にあるわけ――
「ほなじゃあ行ってみるか、刀装具屋」
「刀装具屋があるんですか!? ゲームに?」
今年一番かってくらい大きな声をだした。
鍛冶師をクビになった時よりも驚いたかもしれない。
「これがあるんよなぁ……どや、凄いやろ?」
「すごいです!」
私の反応が気に入ったのか、クツクツと笑う。
「こんなもんで驚いてちゃあかんで! このゲームには1000種類を超える
「せ、せん……」
その驚愕の数字に、開いた口が塞がらない。
そんな様子を見て、再び笑いのツボに入ったらしく、くっくっくっとキャシーさんに笑われる。
「あれ……でも、最初に職業を選択した時、そんなに種類は無かったような気もしますけど」
「
「し、進化するんですか!?」
職業が進化……?
言っている意味がわからない。
「うーんと……昇格みたいなものですかね?」
「せやな、あながち間違ってないで。まあそこら辺は結構ややこいから、おいおい教えたるわ。――そんなことより、行くんか? 刀装具屋」
私の師匠はにやりと口角を上げて言った。
当然、断る私ではなかった。
「行きます! 今すぐ!」
「よっしゃその意気や――と、言いたいところではあんねんけどな」
何やら困り顔で、やれやれと頭を振って、
「実は、この街に唯一の刀装具屋がまぁちょっとなんというか、気の難しいやっちゃねん」
「というと……?」
「気の許した相手にしか商売せんっちゅうスタイルでな。うちは仲ようしてもろてるけど、始めたばっかのトウカだと十中八九門前払いやろな」
「あぁ……なんか想像できます……」
こういう伝統の職人っていうのは、うちの元師匠含め、偏屈な人が多いというのが常識だ。
ゲームでもそういう人がいるのかと驚きはすれど、理解するに容易い。
「だがな、あいつやって職人や。実物を持って行った上で頼めば、まあ店中に入るくらいはいけるやろ」
「つまり、先に刀を完成させる必要がある……と」
「そういうことになるわなぁ」
再び、にやりと笑う師匠。
私もつられて笑ってしまう。
「今すぐ再開したいんですが、引き続きこの工房を借りても?」
「当然や。いつまでだって貸したる」
善は急げ。
師匠に激励をもらった私は、いざ〈心鉄〉造りを開始した。
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