Episode 8 再開

 いつの間にやら日も跨ぎ、登った太陽が再び落ち込んだ頃。

 私は床に膝をつき、深々と頭を下げていた。


「ほんっっっとぉに、すみませんでした!」


「別に気にせんでええって!」


 人の工房でぐっすり寝こけてしまい、ログインしたキャシーさんに起こされたという現状。

 冷や汗が滝のように流れている。


「言ったやん、好きにつこてええって。鍛えていようが寝ていようがかめへんかめへん! あの素材やってようけ余っとうヤツやし」


 その優しさに、ますます頭が上げられない。

 と言ってもキャシーさんのほうは、〈皮鉄〉のほうがよっぽど気になるみたい。

 金床に置いてあったそれを見て、感嘆の声を漏らした。


「にしても、すごいなぁコレ」


「……ありがとうございます」


「これは……〈心鉄〉、か?」


「! それは〈皮鉄〉ですけど……よくご存知で」


 彼女から専門的な用語が飛び出て、正直驚いた。

 ゲームでは鍛冶師と言えども、リアルでは専門外だと言っていたから。


「いやいや、付け焼き刃やからこんなん」


 頬をぽりぽりと引っ掻いて、なんだか照れ臭そうにして言った。


「初めての弟子やからな。まあちょっと、うちも色々調べてみてんけど……」


「師匠……!」


「もう全っ然! わからんことばっか――って、なんや! 急に抱きつくな!」


 感極まって師匠に抱きついてしまった。


「師匠! 私、一生ついて行きます!」


「わかった、わかったって! ええから離れんかい!」







「ところで師匠、ご相談があるんですが」


「なんや急に改まって。またベタベタするんとちゃうやろうな」


「い、いえ。……その、柄と鞘をどうしようかと悩んでおりまして」


「あーな」


 刀の持ち手にあたるつか。そして刀を収めるためのさや

 他にもつば下緒さげおなどがある。

 刀身はもちろんのこと、これらのアイテムは刀に必要不可欠だ。

 無ければ刀として完成しない。

 もちろん、鍛冶師にそんなものが作れるはずもない……。


 ならばどうするのかというと。

 それぞれ専門の職人がちゃんといるんだよねこれが。

 とはいえ現実世界の話であって、そんなニッチな職業がこの世界にあるわけ――


「ほなじゃあ行ってみるか、刀装具屋」


「刀装具屋があるんですか!? ゲームに?」


 今年一番かってくらい大きな声をだした。

 鍛冶師をクビになった時よりも驚いたかもしれない。


「これがあるんよなぁ……どや、凄いやろ?」


「すごいです!」


 私の反応が気に入ったのか、クツクツと笑う。


「こんなもんで驚いてちゃあかんで! このゲームには1000種類を超える職業ジョブがあんねんから」


「せ、せん……」


 その驚愕の数字に、開いた口が塞がらない。

 そんな様子を見て、再び笑いのツボに入ったらしく、くっくっくっとキャシーさんに笑われる。


「あれ……でも、最初に職業を選択した時、そんなに種類は無かったような気もしますけど」


職業ジョブを極めるとな、別の職業ジョブに進化させることができんねん」


「し、進化するんですか!?」


 職業が進化……?

 言っている意味がわからない。


「うーんと……昇格みたいなものですかね?」


「せやな、あながち間違ってないで。まあそこら辺は結構ややこいから、おいおい教えたるわ。――そんなことより、行くんか? 刀装具屋」


 私の師匠はにやりと口角を上げて言った。

 当然、断る私ではなかった。


「行きます! 今すぐ!」


「よっしゃその意気や――と、言いたいところではあんねんけどな」


 何やら困り顔で、やれやれと頭を振って、


「実は、この街に唯一の刀装具屋がまぁちょっとなんというか、気の難しいやっちゃねん」


「というと……?」


「気の許した相手にしか商売せんっちゅうスタイルでな。うちは仲ようしてもろてるけど、始めたばっかのトウカだと十中八九門前払いやろな」


「あぁ……なんか想像できます……」


 こういう伝統の職人っていうのは、うちの元師匠含め、偏屈な人が多いというのが常識だ。

 ゲームでもそういう人がいるのかと驚きはすれど、理解するに容易い。


「だがな、あいつやって職人や。実物を持って行った上で頼めば、まあ店中に入るくらいはいけるやろ」


「つまり、先に刀を完成させる必要がある……と」


「そういうことになるわなぁ」


 再び、にやりと笑う師匠。

 私もつられて笑ってしまう。


「今すぐ再開したいんですが、引き続きこの工房を借りても?」


「当然や。いつまでだって貸したる」


 善は急げ。

 師匠に激励をもらった私は、いざ〈心鉄〉造りを開始した。

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