第5話

祐也の身体は予期していた通りに死んでいった。何例も症例は見ているから、経過は手に取るようだった。顔に出さないようにしていたが、祐也自身が一番自分の身体をわかっているようだった。


「そろそろ、入院を考えよう。必要な手続きがあれば手伝う」


祐也はそろそろ歩くのが難しくなりそうだった。一人暮らしができなくなる前に、生活の基盤を変えなければならない。それはもう死が迫りつつあることの宣告のようなものだ。だが、祐也は顔色ひとつ変えず同意した。説得が不要だったことにほっとすると共に、胸が痛かった。


俺はできるだけ祐也が楽に過ごせる病院を探した。この病気の末期では施設を選ぶ人が少なくないのは知っている。積極的に医療を提供しない分、個人スペースは病院より広いことが多いし、ゆったりと過ごすことができるからだ。


だが、俺は少しでも祐也に長く生きて欲しかった。もちろん、祐也には病院と施設の選択があることを説明し、祐也が病院を選んだ。だけど、病院を選ぶよう誘導しなかったかと言われれば、否定できない。


俺はあれからもずっと祐也が好きなのだと思い知った。俺だって、いつこの病気に蝕まれるかわからないのだ。どうせなら、一緒に病気になって、一緒に死んでいければよかったのに。残念ながら、発症の兆候はなかった。実際、片思いをしていれば誰でもなる病気ではないのだ。


そして、入院の数日前のことだった。祐也は姿を消した。痕跡を何一つ残さず。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る