領主

 朝、支度を終えて身だしなみを整えた二人は領主のいる庁舎へと向かう。

 街で一番大きな、四角い四階建ての建造物。

 要塞として使われていたのか、側防塔や矢狭間などの当時の名残が残っている。

 受付の要件を伝えると、一人の女性に先導される形で四階へと案内される。 

「ワシが、サンドラの領主のアルフレッド・ビルスである」

 二人に対面するや、領主が机越しに挨拶。

 ふくよかな体形で、頭に赤い帽子を被っているアルフレッドに二人はきちんとした挨拶を返す。

「ア、アルシャラから派遣されてきたペータです」

「アンカラです。毒蛇の駆除なら、お任せください」

「!」

 アンカラの口から出た意外な言葉と丁寧な態度に驚くペータ。

 飛び出すであろう失言に身構えていただけに、内心ほっとする。

「さて、さっそく本題に入ろう。

 ワシの庭でヴェノムサーペントが繁殖している。

 これでは日課の庭の散策ができん。

 至急、駆除してくれ」

 そう伝えると、おもむろに立ち上がり、部屋の後ろにある窓を開いて二人に庁舎の裏を見せる。

 窓から二百メートル離れた位置にある、丁寧に整えられた庭園と屋敷。

 庭の中央には円形の噴水が据え付けられており、荒野に似つかわしくない、鮮やかな色の植物が植えられている。

「あそこに植えられているのは外から運び込んだものでな、居心地がいいのかヴェノムサーペント共が住処にしておる。

 使うか?」

 ペータに差し出される望遠鏡。

 魔石が使用されており、その力で非常に高い拡大倍率を持っている。

「いっぱいいますね…」

 一瞥しただけで目に付く毒蛇たち。

 領主の庭をわが物顔で占領している。

「不意を突かれるかもしれんが、気を付けて駆除するように。

 わかってはいると思うが、庭を傷つけぬようにお願いする」

 アルフレッドの忠告に、二人は承諾の意を示すと、一礼して退室する。

「・・・・・・」

 静かに響く足音。

 一歩一歩、階段を降りる。

「意外だったか?」

「ええ、正直…無礼を働いて追い出されるかと…」

「我とて相手は選ぶ。

 街の権力者に喧嘩を売ったところで殺されるのは見えているからな」

 庁舎を出て、宿に戻って装備を整える。

 解毒剤をペータに持たせ、ヴェノムスネークを誘い出すための生肉を買いに行く。

 露店に並べられた罠用の肉はどれもが腐りかけており、酷い臭いにペータが顔をしかめる。

「これを…持っていくんですか?」

「毒蛇を探し回るよりも、こちらが有利な場所に誘い出した方が効率的だ。

 それに、このやり方が一番庭を傷つけない」

 買った罠肉を革袋に包んでもらうと、いよいよ現場へと向かって歩く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る