査定して、そして驚き

 門をくぐった瞬間、熱と喧騒に包まれた。


 ――ここが、ガルザ。


 砂漠の真ん中とは思えないほど、町の中は活気にあふれていた。


「いらっしゃい! 焼き串あるよ! 今なら二本で銅貨一枚!」


「よう、親父! 今日の鉱石は上物だぜ!」


「カンッ! カンッ!」


 市場の掛け声、鍛冶場の鉄を打つ音、行き交うドワーフたちの笑い声――


 そして、どこかから漂ってくる香ばしい肉の匂いが、腹を刺激する。


「……すげぇな。想像より、ずっとにぎやかだ。」


 俺がそう漏らすと、隣でミュウが目をぱちぱちさせながら見渡した。


「人が……いっぱいだにゃ……!」


 ミチオも驚いたように口笛を吹く。


「まさか砂漠の真ん中で、こんな町があるとは……ドワーフ、やるじゃん。」


「うわっ、あれ見て! でっかいハンマー振り回してる……あれで武器作るのかな?」


 リンはキラキラした目で鍛冶場を覗き込む。


 ドワーフたちは見た目こそ強面だが、すれ違いざまに挨拶してくれたり、道を教えてくれたりと、意外にもフレンドリーだった。


「ちびっこ、迷子になるなよー!」  「おう、兄ちゃんたち旅人か? よく来たな!」


 通りを歩くだけで、何人ものドワーフや獣人が声をかけてくる。  皆、それぞれの仕事に誇りを持っていて、町を支えているのがわかる。


「……ここ、本当に砂漠の中なんだよな。」


 俺は空を見上げた。あの焼けるような日差しも、いまはどこか遠く感じた。  この町には、人の熱があった。


「すみません、ちょっと聞きたいんだけど……この辺に、素材を売れる商人ギルドってあるか?」


 道端で果物を売ってたドワーフの親父さんに声をかけたら、にこっと笑って親指で向こうを指さした。


「おう、あるとも。あっちの通りをまっすぐ行って、でっかい看板が見えるはずだ。“商人ギルド・ガルザ支部”って書いてあるからすぐ分かるぞ。」


「助かった、ありがとう。」


 そう礼を言って、俺たちはそのままギルドの方へと向かった。


 商人ギルドの建物は結構立派で、外にも中にも人が多い。  中に入ると、カウンターの奥にレジらしきものがあり、右手には食堂というか、まるで酒場みたいなスペースがあった。料理の匂いが食欲を刺激してくる。


「ここ、夜ご飯にちょうどいいかもな。」


 そう言うと、リンが嬉しそうに目を輝かせ、ミチオは「腹減った」とぼそり。  ミュウも「におい……やばいにゃ……」と口元を抑えてた。


「じゃあ、お前ら、あっちの空いてる席で座って待ってろ。俺が先に素材を売ってくる。」


 三人を隅の席に座らせてから、俺はカウンターへ向かった。


 そこにいたのは――耳がぴょこんと立った、眼鏡をかけたうさ耳の受付嬢だった。


「いらっしゃいませ、こちらは素材買取窓口となっております。ご用件をどうぞ。」


「素材を売りたい。それと……この街で取引するなら、商人登録も必要だよな?」


「はい、その通りです。登録には身分証と、一銀貨シルバーモンの登録料がかかります。また、販売には2%の取引税が――」


「……あー、銀貨、持ってねぇ……」


 俺が苦笑しながらそう言うと、受付嬢はにっこり微笑んだ。


「ご安心ください。今すぐお支払いできない場合は、売却品の代金から差し引くことも可能です。」


「マジか、助かる……!」


 ということで、俺はアイテムボックスから素材を取り出し始めた。昼間、洞窟で拾った金属鉱石や魔獣の素材などを、次々とカウンターの上に並べようとした――その瞬間。


「えっ……!? そ、それは……!」


 受付嬢の目が見開かれ、眼鏡の奥で瞳が揺れた。


「す、すみません! この量、この種類……あとそのアイテムボックス、いえ、“次元系アイテム”のような扱い、確認が必要です。こちらへどうぞ!」


 突然、俺の腕を引いて、奥のドアから裏手へと案内される。どうやら、ただの素材買取じゃ済まないらしい。


 ――一方そのころ、テーブルに座っていた三人。


「ねえ、けいちーお兄ちゃん、なんか変なとこ連れてかれたにゃ……」 「たしかに。あの受付嬢さん、いきなり慌ててたな……」 「怪しまれたんじゃないのか? 次元系のスキルって、たしか珍しいんだよな……」


 三人の視線は、奥の扉をじっと見つめていた――。


 案内されたのは、カウンターの奥にある小さな扉の向こう――ギルドの裏手にある事務用の部屋だった。

 無骨な木の机、山積みの書類、そして壁際には金庫らしき頑丈な箱がいくつも並んでいる。


「こちらです、マスター。」


 うさ耳の受付嬢に呼ばれて現れたのは、白い髭をたくわえたドワーフの老人だった。ギルド支部の管理責任者らしい。


「ふむ……君が“問題の”取引者か。」


 腕を組みながら、鋭い目つきで俺を一瞥する。だがその眼差しには敵意はなく、ただ経験に裏打ちされた警戒心がにじんでいた。


「誤解しないでくれ。君を疑っているわけではない。ただ、“次元系”の扱いには規定があってな……一応、確認が必要なんだ。」


「別にかまわねえよ。見せりゃいいんだろ?」


 そう言って、俺は手を軽く前に出す。


「アイテムボックス――」と、わざとらしく呟いたその瞬間、頭の中で【次元ストレージ】が反応する。


 脳内で想像した鉱石――黒鉄鉱のひとつ――が、光とともに掌に現れる。


「……っ!」


 その場にいた二人が、息を呑むのがわかった。


「まさか、無詠唱で取り出せるとは。こいつ、相当なスキル使いか……いや、それとも……」


 マスターが顎を撫でながら目を細めた。どうやら、“普通じゃない”ことにはすぐ気づいたようだ。


「……まあ、いいだろう。物は本物だ。魔力反応も異常なし。」


 すぐに魔力検知用の道具で確認され、偽装や違法品ではないと証明された。


「君のようなスキル保持者が、この町に来たというだけでも我々としては注目せざるを得ない。だが、素材の出所も正しく、登録も済ませるというなら……問題はない。」


 そして、マスターは一歩こちらに近づいて、やや声を落とした。


「ただし、忠告しておこう。“次元系”は珍しいスキルだ。好奇心で近づく者もいれば、それを奪おうとする者もいる。」


「……気をつけるよ。」


 俺は肩をすくめて答えた。


「そうしてくれ。ガルザは自由な町だが、何事も目立ちすぎると風向きが変わる。」


 最後に書類を手渡され、素材の受領処理が始まる。

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