009

ダンジョン庁から連絡が来たため、私はユイと一緒に放課後訪れていた。

ユイはダンジョン庁に別の用事があったらしく付いてきたらしい。

私は受付をすまし、脇にあるエレベーターに乗り込んだ。


「後路ヨモギ、到着しました。」


最上階にある庁長室の重厚なドアをノックし、私は姿勢を正して入室した。

──しかしその内心は、いたって冷静、むしろ面倒くさいオーラを全開に放っていた。

またこの部屋の空気、重いんだよな……ホコリくさいし。

私は制服の裾を軽く直しながら、庁長室に足を踏み入れる。

室内にはすでに何人かの探索者が集まっていた。

緊迫した空気の中、ひときわ明るい──いや、騒がしい声が響く。


「ヨモちゃぁん!!!」


白銀の閃光が、目にも止まらぬ速さで飛んできた。


「……暑い。」


私は表情一つ変えず、飛びついてきた少女──アリーナ・シュヴィルコフを受け止める。

物理的に。


「また会えたわね!むぎゅううう!」


「アリーナ、握力……今すぐ緩めて。」


「んふふ、ヨモギの制服、アイロンかけてある!偉い!」


「今それ関係ない。」


アリーナはロシアとのハーフで、氷と光を操る超絶万能型のS級探索者。

可愛い立ち振る舞いなのに、思考は脳筋。

さらに……非常に距離感がバグっている。


「ねぇねぇ、今日のパペットはどれ?あのにゃんこ?それともフクロウ?それとも!」


「……全員留守番。」


「えー!連れてきてよ!私、ぬいぐるみのモフモフ成分が足りてないの!冬眠しちゃうよ!夏だけど!」


「季節関係ない。」


ふと、背後の扉が開く。


「おいおい、お前ら、庁長室で抱き合うな。一応ここ神聖な場所な。」


黒のチョッキに革靴の女性――御子柴ミオが、時刻通りに持ち込まれた書類束を机に並べつつ淡々と返す。背筋を伸ばしたその佇まいには、時間厳守と任務遂行を絶対とする強い意志がにじんでいた。


「くく、仲いいわね。ヨモギ、いつもユイが世話になってるね。」


煤けた白衣に豊満な体を包んだ唐戸マキが、ところどころ傷の入ったスナイパーライフルのケースを優雅に置きながら笑った。


「はぁ、相変わらず賑やかだな...国家の存亡がかかってるっていうのに...」


現れたのは庁長──袴田ヤマト。

元・最強の探索者であり、現在は書類に埋もれる日々を送っている哀しき管理職である。


「……全員そろったな。いいか、話を聞け。」


袴田は机に腕を組み、いかにも重大そうな顔をしている。


「熊本の阿蘇山に新ダンジョンが発生した。仮称『阿蘇カルデラダンジョン』。現段階でA級を大きく超える魔力反応を確認している。よって、第一調査隊として──」


「──わー!阿蘇ってあの有名な火口のとこだよね!?観光名所!?え、ヘリ飛ぶの?飛行許可出たの?私、噴火口に落ちない?」


「また九州かよ……。遠いし、飯うまいけど高いし。」


「ケイ。文句なら領収切ってから言え。社会に出て詰むぞ?」


「君たちはダンジョンの初動調査及び、制圧戦力の布石として動いてもらう。学校や職場にはすでに調整済みだ。」


「ってことは……」


「……校外学習扱いだ。出席にはなる。」


「えぇ...地獄じゃん。」


ぼそっと呟いた私にチャラそうな大学生風の男、狩野ケイが足を組みながら机上の冷えたコーヒーに口をつけた。


「うっ、苦...まあ、テストよりはマシじゃない?」


「いや、教師より魔物のほうが話通じる。」


会議室は和やかなような、緊迫感のような、よくわからない空気に包まれる。


「ひとまず、手元の資料を見てくれ。」


私は言われるがままに資料に目を落とした。


《仮称:阿蘇カルデラダンジョン 情報開示:極秘》


・分類:地下式・三層構造(地表/中層/深層)

中央部に縦穴を確認。最深部まで到達している模様。

・地表:牧草地と地脈のうねりが共存する魔力帯域。魔力濃度高。

    魔物:衛星写真から、ヤギのような獣系の魔物を確認。

・中層:詳しい地形は不明。魔力の流れからしてマグマ間欠泉が点在している模様。

    魔物:No Known

・深層:マグマ湖と深成岩の足場、中央に島。

  魔物:No Known 


「ふーん。草原にヤギ、地下は灼熱温泉か……悪くないな」


重低音の声で呟いたのは、筋骨隆々の親父風探索者――鉄崎ゴロウ。

彼は腕を組み、分厚い胸板を揺らしながら資料の衛星写真を睨んでいた。


「とりあえず、東西各方面から2手に分かれて探索を行う。西ルートはケイ、マキ、ゴロウ、そして私だ。東ルートは残りのヨモギ、アリーナ、ミオの3人だ。明後日の早朝5時、この上の屋上からヘリで阿蘇へ向かう。それまで、各自で準備を整えておいてくれ。」


「「了解。」」


...ちょっとテンポはやくない?

そんなにヤバいダンジョンなの?


「とりあえず、連れていく子厳選しないとな…あと、最悪を使うかもしれないから、あっちも準備しておくか。」

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