第11話 崩れる牙城
◇あらすじ◇
告発の波紋がついに水野派の牙城を突き崩す。滝口が残した資料が決定打となり、水野と佐原が同時に社内から姿を消す。これまで沈黙してきた徳永秀樹社長がついに公の場で声を上げ、京都プロセスは“再出発”の一歩を踏み出す。参与・榊の一言が、佐吉の戦いに“証”を与える──。
◇登場人物◇
●石田佐吉(=石田三成)
ついに敵が崩れ始める中でも、浮かれることなく“次に進む覚悟”を固めている。静かな炎が燃え上がる。
●徳永秀樹
康秀の実子で現社長。これまで表には出なかったが、ついに自らの言葉で会社の未来を語る。
●榊隆道
参与。冷静な観察者だったが、初めて“心の言葉”を佐吉にかける。
●水野孝司/佐原敬一
社内の腐敗の中心。全社員の前で失脚が発表される。
◇第1項◇ 牙の崩壊──告知と衝撃
朝九時。
イントラネットの速報欄に、重く響く一文が表示された。
「副社長・水野孝司 辞任」
「総務部長・佐原敬一 降格」
その瞬間、フロアに張り詰めていた沈黙が爆ぜた。
「……マジかよ……」「本当に? あの水野が?」「終わったのか、ついに……」
誰かが声を上げ、別の誰かが椅子を蹴った。
メールが飛び交い、電話が鳴り止まない。
営業部では「こっちにも来てる!」と資料の画面を指さす者、総務では緊急確認の内線が飛び交っていた。
「確認のためログインして!」「誰か本部に連絡回して!」
ざわめきは、ついに怒号と化し始める。
管理職の間にもざわつきが走り、重役会議室には臨時招集のアラートが灯った。
美琴は画面を見つめながら、涙をこらえるように目元を押さえた。
「やったんですね、石田さん」
佐吉は小さく頷いた。
「いえ、やったのは……声をくれた皆さんです」
その目に、浮かれた色はなかった。
あるのは、ただ一つ、次に向かうための“構え”だった。
その時、ネットニュースの速報がスマートフォンの通知に一斉に表示された。
「京都プロセス 株式ストップ安」「内部告発が引き金か」
報道各社が一斉に情報を出し、SNS上ではトレンドに“京プロ告発”の文字が踊っていた。
さらに、本社前にはすでに複数の報道クルーと法務担当を名乗るスーツ姿の男たちが集まり始めていた。
「……もう、戻れませんね」
新名の声が、画面越しの騒動とリンクするように重く響いた。
「ここからが、戦です」
佐吉の目に、静かな炎が灯っていた。
◇第2項◇ 震える壇上──社長の決断
その日の昼。
社内講堂。
全社員が集められた場に、異様な緊迫が満ちていた。
徳永秀樹社長が壇上に立つと、その背筋の伸びた姿にすら、無言の圧が加わる。
無数の視線が集まる中、彼はマイクを握る。
「今回の件を、心より重く受け止めております」
第一声の謝罪が、静寂に沈む講堂に投げ込まれた。
「再発防止のため、私自身が先頭に立ち、新たな倫理体制を構築します」
「信頼は、制度ではなく、人の行動によって築かれるものです」
一語一句、明確な語調。
だがその裏には、社長自身の緊張と覚悟が刻まれていた。
社員たちは息をひそめ、その言葉を聞いていた。
壇上の徳永は、一人で立っていた。
だが、背後には佐吉たちが積み重ねた証と覚悟があった。
一瞬の静寂──
だがその直後、誰ともなく拍手が湧いた。
強く、短く、そして──広がった。
その音は、静かに社内の空気を塗り替えていくようだった。
◇第3項◇ 見える変化──空気が変わる
午後の社内。
フロアを歩く佐吉の背に、視線がいくつも注がれていた。
若手社員が、食堂で声をかける。
「……俺、ちょっと……泣きそうになったっす」
それを聞いた別の中堅社員が、にやりと笑う。
「ずっと見てたぞ。お前ら、ようやったな」
重く張り詰めていた空気に、“言葉”という名の温度が戻ってきていた。
「ありがとう」──自然と、その言葉があちこちで交わされるようになる。
机を囲んでいた壁が、少しずつ“輪”へと変わっていった。
そして──
その輪が、大きな拍手の渦となってミーティングルームに広がった。
「京都プロセス、始まったな」
「やっと、“人”のいる会社になってきた」
誰ともなく湧き上がったその声が、拍手とともに広がっていく。
背中越しに、新名が小さく笑った。
「これが……勝ちってやつですかね」
美琴も静かに頷いた。
「大勝利、ですね」
佐吉は振り返り、仲間たちを見た。
「いえ──ここからが本当の戦です」
その頃、別のフロアでは樋口がモニター越しに社内掲示板の投稿とコメントを見つめていた。
無骨な顔に、珍しく笑みが浮かぶ。
「……やるやんけ、あいつら」
隣の職人が声をひそめて言う。
「何か始まったんですか?」
「見とけ。あれは“人を動かす戦”や」
樋口は煙草を咥えたまま、画面を最後までスクロールした。
その画面の裏──
誰もいない暗い応接室のモニターに、同じ掲示板投稿が表示されていた。
椅子の背に凭れた、黒いスーツの影。
手元でカップを回しながら、無言のまま画面を凝視している。
顔ははっきり見えない。
だが、その無音の存在から滲む圧だけが、異様に濃かった。
次なる“敵”は、すでにその姿を潜めながら──見ていた。
◇第4項◇ 榊の本音──戦の継承
夕方の廊下。
倉庫裏のテラスでは、佐吉、美琴、新名が缶コーヒー片手に小さく談笑していた。
「いやあの時、新名さんの顔、さすがに固まってましたよ?」
「……表情筋が動かなくなるくらい緊張したんですよ」
「でも、見てるこっちまで震えました。あれは、ほんまに」
笑いの輪の中に、ゆっくりと歩を進める人影があった。
「さ、榊参与。お久しぶりです!」
美琴が立ち上がって軽く頭を下げた。
榊は手を軽く振りながら、三人の輪に歩み寄る。
「……楽しそうやな。まぁ、今だけかもしれんけどな」
佐吉が姿勢を正し、缶を持ち直す。
「でも、今は……確かに、風が通ってます」
榊の目が細くなり、佐吉を見据えた。
「昔、会長に言われたんや。“信を継げる者が残れ”ってな」
その言葉に、佐吉は深く頭を下げた。
「ありがとうございます」
榊はふっと笑った。
「そやけどな、次はもっとしんどいで」
「信を得るのは難しい。でも、保つのはもっと難しい」
「しかも、次に揺らぐのは、もっと深いところや。利と情、制度と感情。ぜんぶごちゃまぜの“本丸”が来る」
佐吉は、まっすぐ榊を見返す。
「それでも、立ち続けます。人が笑える組織を作るまで」
榊の目が、一瞬だけ柔らかくなった。
「……ええ顔するようになったな」
「そやけど、慢心するなよ。勝ったときこそ、負け筋が生まれる」
「それを知ってる顔や。……今のお前は」
◇第5項◇ 再起の兆──静かなる幕間
夜。
伏見庵の上空に、雷鳴が轟いた。
遠雷のようでいて、どこか異様に響く。
一瞬、空が閃き、屋根の上の木々が青白く照らされる。
佐吉は、伏見庵の近くで、茶器を手にしながら静かに佇んでいた。
木々が風に揺れ、雨がひとしずく、石畳に落ちる。
「牙城は崩れた。けど、城だけじゃあ国は動かん」
独りごちるその声は、決して驕りではなかった。
スマートフォンに表示された掲示板には、匿名の投稿が表示されていた。
──「俺たちの代わりに、声を上げてくれてありがとう」
佐吉はその一言を、心に深く刻んだ。
胸元の手帳に、ひとつ折り目をつける。
「まだ……道半ばか」
彼の後ろで、康秀が灯の中で静かに見守っていた。
言葉はない。ただ、その存在が佐吉の背中を支えていた。
闘いは終わっていない。
だが、確かに、始まっていた。
この静けさの中にこそ、第二の矢が、既に番えられていた。
◇次回予告◇
新たな嵐の気配──沈黙は一度破れた。だが次に揺らぐのは“本丸”。佐吉たちの矢が届いた先で、新たな敵が牙を剥く。
#戦国転生 #企業改革 #忠義の矢 #情報戦後編 #風穴の先へ #伏見庵の雷鳴
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