僕の小さな異世界冒険

第1話 窓の向こうの青い空

夏休みの朝は、どこかゆるい。


学校がないだけで、空気までのんびりしている気がした。


そうたは、自分の部屋の窓辺に座り、ぼんやりと外を眺めていた。


青く広がる空。

もくもくと膨らんでいく入道雲。

ジリジリと照りつける日差しのなかで、耳に刺さるようなセミの声。


網戸越しに、草いきれの匂いと、生ぬるい風が吹き込んできた。


今日も、特別なことなんて、なにもない。


……なにもない、けど。


どこか、胸の奥がむずむずする。


(なんだろう、この感じ)


窓の外には、遠くに田んぼが広がり、

その向こうに、ぽつんと小さな森が見えた。


ただの夏の日。

でも、どこか違うことをしたい気持ちが、うずいていた。


「そうたー! 宿題、ちょっとは進めたのー?」


台所から、母さんの声が飛んできた。


「うん、あとでやるー!」


適当な返事をしながら、そうたは背中をぐるりと伸ばした。


焼きたてのトーストの香ばしい匂いが、鼻をくすぐる。

ふと玄関を見ると、父さんが靴を履いているところだった。


「今日も暑いなあ……」


父さんはぼそっとつぶやき、スーツの上着を肩にかける。

そして、ふとこちらを振り返った。


「そうた。夏にひとつくらい、胸を張れること、見つけてみな」


そう言って、小さく笑った。


父さんは、いつも突然こういうことを言う。


そうたは、少しだけ胸がきゅっとなるのを感じた。


「……うん」


小さく返事をして、父さんを見送る。


何をがんばればいいのかなんて、よくわからないけど。

それでも、胸のどこかに、なにかが残った。


そのとき。

どたばたと階段を駆け下りる音がして、妹のひよりが部屋に飛び込んできた。


「おにーちゃん! 川行こ、川! ひより、もう水着着たー!」


ピンクの浮き輪を抱えたひよりが、にっこにこで近づいてくる。

外の熱気を吸い込んだ手が、ぺたぺたと温かかった。


「もう朝ごはん食べたの?」


「んー、まだー!」


と、すぐに台所から母さんの怒鳴り声。


「ひより! 朝ごはん食べてからー!」


「はーい!」


ひよりは、ぷぅっとふくれた顔でリビングへ引き返していった。


そうたは、ふっと笑った。


元気いっぱいで、怖いものなんてないみたいな妹。


(いいなあ)


自分はどうだろう。

新しいことに飛び込むのは、やっぱりちょっと、こわい。


でも──


(ぼくも、すこしだけ、なにかしてみたいな)


そうたは、小さく心の中でつぶやいた。


窓の外は、朝よりもずっと強く、まぶしく光っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る