異世界人がやたらとキスを求めてくるのには理由があって..。

@kamokira

プロローグ

 昔から、特に苦労のない人生を送ってきたと思う。


 頭も顔も悪くなく、与えられた課題もそつなくこなす。


 人生に点を付けるなら、俺の場合は85点といったところか。


 最高ではないけれど、及第点ではあったのにー


 運命の歯車は突如として狂い出した。


「ごめん別れよう。拓也のこと、もう好きじゃない」


「え。どうしていきなり..」


 高三の春、3ヶ月付き合った彼女に振られた。


「私気付いてたんだよね」


「何を..」


「拓也さ。私の事、そんなに好きじゃないでしょ?」


「....。つまり、俺が悪いって意味?」


「違う違う..。ただ、申し訳ないなってそう思っただけ..」


「ふーん」


 失言だったと思う。どうせ別れようと思っていたのにーー


「知ってたよ。玲那がバスケ部の岡田とホテルに入ってくとこ、見てたから」


 言った瞬間、彼女の顔から血色は失せ、次第に赤みを帯びていった。小刻みに震えていた唇も、ぎゅっと固く結ばれている。


「だったらどうして..」


「好きなんだろ。岡田の事」


「......。もし、好きだと言ったら?」


 とりつく島も無かった。いつからか、玲奈の心は俺から離れていたのに、それに気付くどころか、見て見ぬふりをしていた。


 それは彼女も同じか。好きでもない俺をすぐに振る決心も付かず、今ようやく口にしたかと思えば虚言だった。図星を突かれてなお、心理ゲームを仕掛ける始末だ。


「情けないな」


 そこそこだと思っていた俺の人生はその時、音を立てて崩壊した。


「自分が酷く情けない。玲奈の心に、何も残せなかったーー」


 言いかけて、脳裏にある妙案が思い浮かんだ。


 パートナーの浮気の発覚した男が、半狂乱になる。それでは弱い。俺の平穏と人生をぶち壊しにした彼女の心に消えない傷を残すため、目の前で自殺未遂でもしてやっったらどうだろうか?


 今いる三階の教室から足場まで、高さはあまりない。足から落ちれば、骨折ぐらいで済むだろう。


 そう思って校舎から飛び出した時、窓越しにとらえた彼女の顔が、俺の人生最後

の視覚情報だった。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る