終わったあとのこと

客間に向かっている間、ユーリは何も言わなかった。何かを堪えているような、思い詰めているとも思えるような表情をしている。きっと彼は人前で弱みを見せられないのだ。

 早くユーリが落ち着ける場所に行こうと早歩きをする。

 ――――――――――――――――――

 いつもの客間に着くとユーリは崩れ落ちるようにソファに座り、そのまま横になった。

「……ナオ」

「どうした?」

 名前を呼ばれたので近づいたがその後反応はない。何か言いたいようだが言い淀んでいる。

「甘え下手め。俺に出来ることならするって言っただろ」

 ソファの空いてるところに座ってじっとユーリを見つめる。柔らかな髪を撫でると心地良さそうに目を閉じた。

「……気持ちが追いつかないんだ。全部終わってホッとしたような……何も考えられない。ナオに何かしてほしいのに、何も思いつかない……。」

 おそらく今のユーリは混乱している。実家の裁きを見届けた上に実父から浴びせられた罵詈雑言。

 今回の事で俺はユーリの横にいただけで何かしたわけではない。もっと気の利いた言葉を言えればユーリの心は穏やかでいられたかもしれないのに。

「……なんて顔してるんだ。君がいなかったら私はあの場にいられなかった。君が私の居場所になると言ってくれたから最後まで立っていられたんだ。」

 髪を撫でていた手を掴んで頬擦りしてくる。

 俺はユーリを抱きしめて自分が下になるようにソファに寝転ぶ。

 急に体勢を変えられてユーリは不満を口にしたが嫌ではないようで、クスクスと笑って腕の中で大人しくしている。

「君はずるいな……出会ってから1年も経ってないのに離れられなくなってしまいそうだ」

「離れなくていい。離す気もないけどな」

 「ふふ……ありがとうナオ」

 よっぽど疲れていたのかユーリはそのまま眠ってしまった。

 穏やかに寝息を立てるユーリの頭を撫でながら今日の事を振り返る。

 正直にいえば反省や後悔ばかりが浮かび上がる。俺には力も言葉も足りない。グルグルと考えを巡らせているうちにふとさっきの兄の言葉が頭をよぎる。

「ナオはナオにしかできないことをするんだよ」

 俺にしかできない事。他の人より色んな力が思っているけど、そんな俺にしかしてやれない事。

 巻き込みなのか兄の付属品としてなのか、どうして自分も召喚されたのかは分からない。でも呼ばれたからには、ユーリと出会ったからには、やれる事はやってみよう。

 ユーリの重みと体温を感じながら目を閉じて意識を手放した。

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