一悶着
巡礼を始めてしばらく経ち、遂に最後の街に着いた。
ここは王国から遠く瘴気が出やすい土地である。聖者を保護している王国から遠いから瘴気が出やすいのか瘴気が出やすい事で遠くに王国が作られたのか因果は不明だがとにかく1番危ないらしい。
瘴気自体も毒だがそこから人に害なすモンスターが出現したりする。浄化の力を蓄えた魔石は瘴気そのものの発生を抑える他モンスターの侵入も防ぐそうだ。
到着した街は他の街と比べてどことなく暗いような気がする。聖者を迎えた街の偉い人も歓迎というよりは必死さが滲み出ている。
「聖者様……!よくぞ来られた、こちらです、さあ……」
案内された場所に行くと今にも光の消えそうな魔石があった。
ここは土地柄浄化のローテーションが早いらしい。この街の浄化の為に聖者が向かう事がある程度である。
「はい。すぐに祈りを」
兄が祈りの準備を始めると同時に各々やる事を進めていく。
――――――――――――――――――――
兄が祈りを捧げている時。
やることのない俺は兄から離れすぎない場所であればある程度見て回って良いと言われていたので街の様子を見てみる事にした。
「なり損ない共が、調子に乗るなよ!」
男の怒声が聞こえてきた。近くで揉め事が起こっているらしい。
正直その場を離れたい気持ちになったがこの場で「なり損ない」なんて言われる立場にあるのは聖者の補佐くらいである。
揉め事の現場を覗けば、案の定ユーリ含む聖者の補佐が中年の男に絡まれているようだった。
丁度周りに護衛がいないタイミングを狙ってきているようでこの男を止められる人間はいなかった。
「何度も言っているがこの薬は一度に大量に作れるものではない。1人が沢山持っていくと皆に渡らなくなってしまう」
「俺には家で待ってる家族がいるんだ!」
「それが本当だとしても4.5人程度の家族なら次の巡礼までは充分のはずだ。これ以上に薬が必要な者は予め届出を……」
男の要求を気持ちいいくらいばっさり切り捨てていくが男は興奮したままだ。
どこに隠し持っていたのか刃物を取り出し襲いかかってきた。
「勘当された無能の癖に生意気な!」
――――――――――――――――――――
そこから先の事はあまり覚えていない。
腹部が燃えるように熱くなったかと思えば段々と体が寒くなってくる。
なんとなく、「あ、俺は死ぬんだ……」とぼんやりと感じていた。
「ナオ……!――――……!!」
ユーリの声が聞こえてきた。無事で良かった。
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