第12話 悩み相談

「お兄ちゃん、悩み相談しよう」

「急だな」





 7月中旬に差し掛かろうとしている時期、本日も配信をしようかと思っていると妹がそんなことを言ってきた。





「ヴィクトルナの声は可愛いし、癒し効果もあるから! きっと悩みとかを軽減できる! こういうのって絶対需要あるよ!」

「ふむふむ」

「まぁ、前にも冒険者とかサラリーマンとか応援してたから似たようなものだと思って欲しい!」

「なるほど、ああいう感じか」





 まぁ、応援をするのは嫌いじゃないよ。特に冒険者とかはね。ただ、最近は割とどんな人でも応援するスタンスになってきている。



 偶に、応援してください! とか言うリクエストがあるのでそれに答えながらゲームをしたり、しなかったりしているのだ。




「おっけ、やってみよう」

「よーし!」

「あぁ、それと配信の切り抜きとか色々繋いで【ヴィクトルナの頑張れ1時間耐久動画】も作っておいたから宣伝しておいて」

「え!? なにそれ、聞いてない」

「言ってないよ。動画公開自体はもうしてるから、宣伝お願いねー」





 いきなりのとんでもない情報に驚きつつ……そして、夜の8時になったので配信を始める。




「あなたの夜に、ひとすじの光を! どーもー、勝利と月の女神ヴィクトルナでーす……!」





【ライトセイバー(男):待っていたよ、この時を!】

【名無し営業マン:今日は早めの帰宅です! お疲れ様!】

【独身社長:ちょうど早く帰れたのでヴィクたん見れて嬉しい!】

【謎の存在:好き、結婚して】

【パフェパフェ:これから甘い時間が始まる】

【妖怪腕時計:女神をウォッチします】

【ドラゴン神社:お疲れ様】





「はーい、皆さんお疲れ様ですー! 今回なんですけど、お悩み相談会としてご一緒に時間を過ごしていければと思います。私でよければガンガン応援するので何かありましたらコメントをお願いします!」



 ふむ、こう言うスタンスでいいのだろうか? まぁ、配信タイトルにもお悩み相談募集! と言う風に書いてあるしね。結構来るんじゃないかと思っている。




「あと、応援されたいという声にお答えして、【ヴィクトルなの頑張れ1時間耐久動画】作りました!よければ、あとで見といてくださいね!」



 これ勝手に永遠が作っておいたらしいけど……需要あるんだろうか。あるんだろうなぁ、永遠もあると言っていたし。この界隈はいまいちわからないことが多い。



 



【ライトセイバー(男):応援動画すでにチェック済みです! それと今日もダンジョン頑張ったので褒めて欲しい】

「あ、ライトセイバーさん! 勿論です! いつもありがとうございます! ライトセイバーさん偉い! ベスト冒険者認定! さいこーです! あと動画も見てくれてありがとうございます!」

【ライトセイバー(男):ありがとうございます! すごく耳がゾクゾクしました!!】

「あ、そうですかぁ! 喜んでくれたら良かったです!」




 相変わらず、ライトセイバーさんは冒険を頑張っているんだなぁ。



 あれ、でもこれってお悩み相談なのだろうか?




【謎の存在:相談です。好きな人がいるんですけど、中々言えません。距離が近すぎるって言うのもあって……どうやって距離を詰めるべきでしょうか?】

「あ、謎の存在さんコメントありがとうございます! えっと、恋のお悩みですか。あーごめんなさい、私恋愛あんまり詳しくなくて……え、えっとそうですね」




 むむむ、今度はちゃんとお悩み相談が来たのだけどもこれはどう答えるべきだろうか? 俺は恋に関しては全く詳しくないんだけども!!!




「距離が近すぎる人ですか……答えが間違ってたりしたらすいません! でも、私の精一杯の答えをしますね!」





 まぁ、答えが質問してくれた人の役に立つかどうかは分からんが、質問された以上は考えをまとめて話さなくてはならない。




「ズバリ! 気持ちを言うしかない! さりげない優しさとかも素敵ですが、大事なのは告白をすることだと! 関係性を壊すかもしれない恐怖はあると思いますが、創造の前に破壊ありなのです!」




 結局、気持ちを伝えるしかないのだと思う。そりゃ、漫画の恋愛とかなら超能力みたいに互いに気持ちが通じてとかあるだろうけど、現実で大事なのは気持ちを察してもらうではなく、気持ちを伝えることなのだと感じる。



 まぁ! 彼女いませんけど!! ソースなし!!!






【謎の存在:なるほど……ありがとうございます! 好き結婚して!】

【ライトセイバー(男):これはまさかの恋愛マスター!! 流石ヴィクたん。あと謎の存在、ヴィクたんに向かって結婚とか調子乗るなよ】

【名無し営業マン:これは確かにそう思います。自分も営業してるので分かりますけど、ちゃんと言葉にして商品の良さを表現するって大事だと感じます】

【独身社長:性格悪い奴ほど恋愛とかできるのが多いのは、関係性を壊してもいいと安易に思えるからなんだろうなぁ。ガンガン相手にアプローチして壊しても問題ないと思っている……それに気づくとは流石ヴィクたん】

【妖怪腕時計:これは本質をウォッチしてるねぇ?】

【ドラゴン神社:なるほど、なるほドラゴン(ギャグ)】





「あ、コメント欄にてたくさんの意見ありがとうございます。共感してくれている方やギャグを言ったりしてくれる方もいますね。謎の存在さんも早速私にアプローチをしてくれますね!でも私は女神なので、人間界の人と結婚はできません!!信心の気持ちだけ受け取っておきます!ありがとう!」


 こんな返しでいいかな?

妹が、Vtuverはファンとの距離感は気をつけろってめっちゃいってたから。人気配信者みて勉強したけど……。うまくできてるといいが。


 こんな感じで質問に答えたり、悩み相談の趣旨からズレるが応援をして欲しいと言うリクエストに応えたり、そうこうしている内に時間は過ぎていった。




「あ、もうすぐ11時30分ですね。そろそろこの辺りで……」




 いつも8時から11時過ぎくらいまでを配信時間としている。だから、そろそろ終わりにしようと思っていた時……





【引きこもりマン:私も最後に質問いいですか?】

「あ、どうぞどうぞ! では今日は引きこもりマンさんが最後と言うことにしましょう!」



 最後の最後に質問が来た。時間も時間なので今日はこの人の話で終わりにしようと思った。




【引きこもりマン:私は今年で43歳の引きこもりになります。こんな歳なのに情けないと思うのですが、自分と将来に絶望して憂鬱でしかないです。何より年老いた両親に負担をかけていることに対しても不安と申し訳なさいで生きていいのかとも思っています。重い話で申し訳ないです、これから私は前を向いて社会に出なければとは思うのですが、少しだけ背中を押して頂きたいです。外に出るのが怖くて仕方なくて……図々しい質問ですいません】

「……あ、え、えっと、コメントありがとうございます」




 ……思っていた以上に重い話だった。うーむ、これは流石に俺では力になれそうにないかもなぁ。





「そうですね……せっかく質問してくれたのにすいません。私は引きこもりと言うわけではなくて、年老いた両親を働かせて申し訳ないと思う気持ちもわかりません。それに年も近しくもなく若輩者でして。その、境遇が違うすぎるというか……だから、ごめんなさい、貴方が欲しい言葉を言えるかとか寄り添えるかは分からないです」




 俺には分からない領分の話なのは間違い無いだろう。同情を安易にするべき話題でもなさそう。ただ、全部わからないわけでも無いかもしれない。



「でも、少しだけ分かる部分もある気がして……だから、ほんの少しだけ寄り添えたらって思います。私……結構前の話なんですけど、車が走ってるを見てここに飛び込んだら全部楽になるなって思った時もあります」




「その、私は借金もあって、妹も居るんです。Vチューバーをやってるのも借金を返せるかもしれないと妹に勧められたら始めました。まぁ、色々省きますけどこの借金は本当はしなくてもよい借金で、だから妹を無理やり付き合わせてしまったと私は思ってるんです」



「それが申し訳なくて……私は焦ってました。前に冒険者をしていたんですけど、そこでも結果が出なくて、このままこんな憂鬱が続くのかなって……」






──冒険者になりたい。そう、ずっと思っていたけど結果なんて出なかった。





「そんな時、Vチューバーをやってみないかと言われて初めて見ました。最初は嫌々という面もありました。でも……今はそこまで悪くないって思います。私は自分が挫折したら、同じような人を応援したいと今は少しだけ感じてます」





「……貴方を急かしたいわけでは無いのですが、でも、また外に出たいと思うなら背中を押します! 大丈夫、外に居場所はきっとあります。少なくとも、ここは8時から11時くらいまでですけど、席は作っておきますから!」




「綺麗事と思うかもしれないですが、私綺麗事大好きなんです。漫画とかもハッピーエンドが大好きなんです。だから、


「──貴方の未来に希望はきっとある! 私はそう信じます! 絶対夜は明けますよ!」



【ライトセイバー(男):ワタシも応援する。一緒に頑張ろう】

【名無し営業マン:俺も昔、結果出なくて辛かったことあります。力になれないかもしれないですが、応援させてください!】

【独身社長:人生って本当に少しのことで変わるから。知り合いには小学校から引きこもりなのに成功した人もいる。希望はまだ失われないと思う!】

【謎の存在:辛い人生、報われる日が来るように祈ってます!】

【パフェパフェ:まぁ、社会は辛い。ここは割と優しい甘い世界だからね、パフェだけに。一緒に甘い世界に浸ろう!】

【妖怪腕時計:大丈夫、俺も社会にいるから。辛いこともあるけど、悪いことばかりじゃ無いさ】

【ドラゴン神社:色々あるんだな。お疲れさん。あんま急ぐなよ】




【──引きこもりマン:ありがとうございます。こんな優しくされたの初めてです。もう一回、少しずつ社会に出れるように頑張りたいと思います】





「おお! 皆さんのコメントも励みになったのかもしれないですね! でも、焦らないでくださいね! ゆっくりいきましょう!」



【──引きこもりマン:はい。本当にありがとうございます】



「いえいえ、応援してます! 闇夜のとなりに、いつもヴィクトルナがいますから!」





──その日は、それが最後の質問で配信は終わった。




 あの最後のコメントは気を遣って、言ったのかそれとも本心でもう一度走り出すと決めたのか俺は分からない。


 でも、もう一度立ち上がりたいと思ってくれのなら嬉しいなと思った。









◾️◾️




【──貴方の未来に希望はきっとある! 私はそう信じます! 絶対夜は明けますよ!】





 画面の中のVチューバーはオレにそう言った。なぜ、この人はこんなにもオレに優しいのか。



 今まで会ってきた人で優しい人など居なかった。世界には傷付ける人しか居ないと思ってて、それが怖かった。


 だから、もう、塞ぎ込んだほうがと思っていた。だけど、怖い人だけでは無いのなら……




【ライトセイバー(男):ワタシも応援する。一緒に頑張ろう】

【名無し営業マン:俺も昔、結果出なくて辛かったことあります。力になれないかもしれないですが、応援させてください!】

【独身社長:人生って本当に少しのことで変わるから。知り合いには小学校から引きこもりなのに成功した人もいる。希望はまだ失われないと思う!】

【謎の存在:辛い人生、報われる日が来るように祈ってます!】

【パフェパフェ:まぁ、社会は辛い。ここは割と優しい甘い世界だからね、パフェだけに。一緒に甘い世界に浸ろう!】

【妖怪腕時計:大丈夫、俺も社会にいるから。辛いこともあるけど、悪いことばかりじゃ無いさ】

【ドラゴン神社:色々あるんだな。お疲れさん。あんま急ぐなよ】








──世界には悪い人だけでは無いのかもしれない







 昨夜の配信から一夜明けた。寝る時も、彼女の子守唄を聞いて意識を落とした。そして、目が覚めた時に改めて感じた。




 やはり、いつもよりも体が軽かった。




 これはただの子守唄ではないのかもしれない。もしかして……月の勝利の女神のVチューバーとか言っていたけど



 本当に女神か何かなのだろうか。





「少しだけ、やる気がある……今日はそうだな。この汚い部屋を片付けてみようかな」





 ゴミや本、ゲームなどが散らかっている自室。久しぶりに掃除をしようと荷物に手をかけた。






「……カーテン、開けてみるか」





 ずっと陽の光を遮っていたカーテン。これはオレが外の世界が怖いからと見えなくするため、何より自分を隠すためにしていたものだった。




【……貴方を急かしたいわけでは無いのですが、でも、また外に出たいと思うなら背中を押します! 大丈夫、外に居場所はきっとあります。少なくとも、ここは8時から11時くらいまでですけど、席は作っておきますから!】





 オレは……居場所がある。あの人はオレに居場所をくれて、外にも希望があると教えてくれた。





──カーテンを開けた。すると、輝かしい陽の光が部屋中に降り注いだ。





「希望はある……か」






 もう一回、外に出てみよう。その前に部屋を掃除してからだけど……。その日は朝から夕方くらいまでゴミを出したり、本を片付けたりした。



 仕事から帰ってきた両親は急に大量のゴミが置いてあるから、僅かに驚いたようだったがオレは携帯で部屋を片付けたと送り、了承をした。





 ──日が落ちた夜……オレは意を決して外に出ることにした。






 日が出てる時にいきなり外に出るのは少しだけ、抵抗があったからだ。夜ならば人の目も少ないし、何よりオレが落ち着く。




 家の扉に手をかける。自然と自身の手が震えていることに気づく。そして、心も怯えていることに気づいた。



 だが、ヴィクトルナのちゃんねるの【ヴィクトルナの頑張れ1時間耐久動画】をイヤホンで流しながらなんとか、外に出ることができた。




 7月中旬に差し掛かる時期、その夜風は少しだけ肌寒いが悪くは無い気がした。家から出て、ゆっくりだが近所を再び歩く。


 耳元では女神が頑張れと応援してくれていた。



 住宅、コンビニ、スーパー、カードショップ、本屋、飲食店、ホテル、ゲームセンター。沢山の建物や店、オレが引きこもっている間に世界は常に動いていたと思い知らされた。



 そんな中歩き続けて……





「はじまりの洞窟……久しぶりだな」






 国が管理しているダンジョン、大きなゲートによって封じられているその入り口。ゲートがある場所は役所のようになっており職員もちらほら見受けられる。


 そして、他の冒険者もちらほらと見られた。ここはオレも昔よくきていた。



「お兄ちゃん、そろそろ帰らないと配信遅れちゃうって」

「そうだな。さっさと帰ろう」

「もー、頑張りすぎだよ」




 今すれ違ったのは兄妹だろうか? それにしてはあんまり顔が似てなかったように見えたけど……まぁ、どうでもいいか。



 オレも昔はよくダンジョンに挑んでいた。ヒーローになりたいって夢があったから、そうなれるかもと思っていた。



 だけど……

 


ランク【E】

名前日比野 健二ひびの けんじ

レベル10

攻撃:11

防御:13

俊敏:18

魔力:25

【スキル因子】

・ヒーロー遺伝子

【ヒーロー覚醒】

・全ステータス向上

・応援されるほど効果上昇。心の底から応援され、その応援を信じるほど効果が上昇

・応援を信じられないほど効果が下がる。





今見ても鼻で笑ってしまう

最初こそやる気がでていたたが、待っていたのは無惨な現実だった。



──オレは社会で擦れてしまった。誰かの応援を受け入れる心もなければ、されるほどの人間でもなかったからだ。


このスキルを獲得してからというもの、ステータスはなんと下降した。

薄々そうじゃないかとは思っていたが、それを直視するのも辛かった。




だが、どうだろう。


今日は、以前より動きがよくなってる気がする。


気の所為かもしれないが……






「今日は、ダンジョンの入り口まで来たし……一通り外を歩いただけでもよしとするか……」









──その時、地震が起きた。







 まさに帰ろうとした瞬間だった。立っていられないと思うほどの大きな揺れがダンジョンの入り口付近で起こる。



 これ、最近地震多いけど何かあるのか……なんとなくだが嫌な予感を感じながら、揺れが収まるのを待った。そして、自宅に向かって歩き出そうと






『──ギャジ』






 身の毛がよだつ……そんな言葉がある。それが当てはまるとしたらまさに今なのだろう。



 不気味な何かの叫び声に対して、思わず目線を向ける。そして、目視した、ダンジョンの入り口には『ダークゴブリン』と言われるモンスターがいた。



 まじかよ……Dランク冒険者が倒すようなモンスターがなんではじまりの洞窟に居るんだよ……



 よくあるファンタジーゲームとかに出てくるゴブリン。それが黒くなったと表現できる。いや、見た目など問題では無い、問題なのは本来ならここにいないはずのモンスターが居るということであり、



 同時にここはEランク、もしくは成り立ての冒険者しか居ないということだ。




「逃げろ逃げろ!! やばいやばいやばい!!」

「なんでダークゴブリンが居るんだよ!!」

「はじまりの洞窟じゃないのかよ!!」




 周囲が悲鳴で染まった。俺の隣にいた新人の冒険者達も、持っていた杖や剣を落として一目散に走り出す。


 俺も、足が勝手に動きそうになる。でも、動けなかった。いや、正確には──俺だけ、目が合ったんだ。



 ダークゴブリンの、赤い瞳と。


「──ッ!」


 次の瞬間には、巨体とは思えぬスピードで奴が突っ込んできた。俺も、思わず新人冒険者が落とした剣を拾う。


 そのタイミングでゴブリンは背中の鉄棒のような棍棒を振り上げ、俺に叩きつける。




「ぐっ……!?」


 咄嗟に剣で受けた。だが、重い。肩にズシリと衝撃が走り、膝が崩れた。


 ──ダメだ。力じゃ勝てない。


 息が荒れる。頭が真っ白になる。逃げたい。でも、背を向けたら、終わる。

 奴の目が、それを告げていた。



 赤い瞳がこちらをじっと見ている。その瞳が今まで自分を見てきた人間と重なった。虐めてきた、攻撃をしてきた、裏切った、嘘をついた人間。



 同じように、いや、同じだった。





──やっぱり、世界は怖いことばかりだった





 このまま死ぬのかなぁ……。せっかく、外に出れたのに……、もう一回頑張れるかもしれないと希望を抱いたのに。


 でも、死ぬのもあのまま部屋で腐っていくのも同じだったのかなぁ








『──頑張れ! 出来る! 頑張れ!!』




 電子イヤホンからそんな音が聞こえてくる。頑張れ……オレに出来るのだろうか。出来るはずもないよなぁ……オレよりもずっと強い敵なんだ。



 オレは……ヒーローじゃない……。そんな都合よく勝てるはずもないんだ。これまでの人生でそんな大層な存在じゃないのは知ってる。




【スキル因子】

【ヒーロー覚醒】

・全ステータス向上

・応援されるほど効果上昇。心の底から応援され、その応援を信じるほど効果が上昇

・応援を信じられないほど効果が下がる。




 オレのスキル因子……これはオレに向いたスキルではなかった。もしかしたら、強いのかもしれないと期待をしたこともあったが使いこなせる器などではなかったんだ……






『ジャッ』

「がっ!!」




 剣で棍棒を受け止めている最中に今度は足蹴りにて、吹き飛ばされた。役所内の壁に激突して、背中を強打する。



「けほげほッ」



 こ、声がうまく出ない。は、早く立ち上がらなくてはならないのに……、このままだと、死んでしまう。


 

 部屋で腐っているのもここで死ぬのも同じ。そうかもしれないけど……



 まだ死にたくない。こんなところで終わりたくない。



 そう思った瞬間、足元の杖を蹴り上げた。それがゴブリンの顔に当たり、奴の動きが一瞬止まる。


 



『──頑張れ! 出来る! 頑張れ!!』




 ヴィクトルナの声が聞こえる。オレは……まだ頑張れるのかな。あのスキルは自分と世界を信じられないやつにはマイナスに働いてしまう。


 だから……オレは冒険者などには向いてない。




【──貴方の未来に希望はきっとある! 私はそう信じます! 絶対夜は明けますよ!】



 彼女はオレに本心でそう言ってくれたのだろうか。それともただ適当に言っただけだろうか。



 もし、本心だったら嬉しいなぁ……こんなおっさんが何を思っているんだ。情けな過ぎだろ。



 もし、応援が本物でオレが信じれば、スキルの力で勝つことができるのかもしれない。



 ……オレ、まだ死にたくない。もう一回、立ち上がりたいんだ……ッ



 ──オレは……あの女神を信じる。本心でオレを応援してくれたのだと……。持っていた剣をオレは強く握る。


 



「──本当の戦いは、ここからだぜ」





 オレは……オレを、オレの未来を……何よりもあの言葉を信じる。



「うおおおおおおおおおおおおおっ!!」



 叫びながら踏み込む。刹那の瞬間、自身の体から黄金の光が微かに出現しているような気がした。


 そして、全体重を乗せて剣を振り抜いた。黒い皮膚に火花が散る。浅い。だが、確かに手応えはあった。



「くそっ……まだ──!」




 再び棍棒が振り下ろされる。その時だった。脇に避け、ギリギリで奴の懐に潜り込む。そして、腹を狙って剣を突き立てた。




「信じる……オレは信じるッ」




 鈍い音と共に、剣が深く入る。ゴブリンが呻いた。ぐらりと身体をよろめかせ、棍棒を取り落とす。




『ジャッ!!』




 だが、ブラックゴブリンというのはDランクが相手にするモンスター。この程度ではやられないようだ。



 でも……お、オレ、以前冒険者をしていた時よりも動けている……!?



 潜ったのなんて10年、いやもっとあるはずなのに。ブランクだって絶対あるはずにも関わらず……思っていたよりも数段動けている。


 頭の中ではよく動けるという話もあるけど……頭の中よりも動けている。




 剣でゴブリンの腹を再び切る。血生臭い匂いが辺りに撒き散らされる。




 戦いながら、少しずつ戦闘の勘も取り戻してく気もする。あの時、会社も辞めて、30歳近くだっただろうか。


 冒険者で一発逆転したいと願っていた、ヒーローになりたいと願っていた。



 あの時の感覚が少しずつ蘇ってくる。




『ガガッ』

「しつこいッ」




 何度も何度も切ったとしてもまだ、立ち塞がるモンスター。こちらの動きが良くなっているとは言え……ここまで強いのか。


 だとすると……これに優位に慣れているのはスキルのおかげなんだろう。



 ……じゃあ、彼女はやっぱり本心で言ってくれていたのか



 ふと、体から溢れる力がまた上がった気がした。大きくまた、一歩踏み出し、ゴブリンを切り裂いた。


 だが、体の途中で剣が止まった。硬い筋肉で剣が止まってしまっている。




「オレは」

『ガガッ!!!』



 斬りきれず、剣が止まり一瞬隙ができたところにゴブリンは拳を振り下ろそうとする。



 このままだと、死んでしまうかもしれない。一旦ここは引いて……いや、違う!



 逃げない……ッ




「うぁぁあああああああああ」




 咆哮を上げて、力一杯に剣を振り下ろした。目の前には魔石と灰になってしまったモンスターの残骸がある。





 ──勝った、のか……?




 その場にへたり込み、しばらく動けなかった。

 鼓動だけが、やけにうるさく耳に響いていた。










 ──オレはその日の、出来事を忘れない。それから数日後、オレはこの出来事をどうしても誰かに話したいと思ってしまった。



 いや、信じられないかもしれないけど。本当にあった人生を変える日のことを。



 何より、とんでもなく可愛いVチューバー、女神ヴィクトルナのことを……。どのように話すかは色々考えたがスレにしようと思った。



 オレはここで結構色んなのを見ているし、何より他の媒体をよく知らないからだ。





 ──自室のパソコンでこのようにオレはスレを立てた。






【──Vチューバーの配信見たら、人生変わったんやがww】

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