ある兄弟のよくある日常

江里 伊織(えり いおり)

正直

「正直に吐いたらラクになるぞ」

 俺の目の前にはカツ丼がある。向かいには兄さんが頼んだトンカツ定食がある。

 兄さんはじっと俺を見つめる。俺の目の奥にある、深い思いを見抜こうとするかのように。もし、兄さんに俺の思いがバレたら、大変なことになる。

「いつまでも黙秘を続けるつもりか」

 だが、兄さんは声を潜めながらもはっきりとした口調で、俺に目をそらすことを許さないという、強い意志を込めてくる。俺は目をそらし、テーブルの冷めかけたカツ丼を見つめた。もったいない。

――早く食べようぜ。冷めちまうじゃないか。

 俺はそう言いかけたが、

「いつまでも、黙っていたらつらいだろう」

 ここで兄さんは柔らかい笑みを見せた。俺はどきりとする。もう、ごまかしきれない。

「さあ、言うんだ。言わなければいつまでもこのままだぞ」

 打って変わって、穏やかな口調に変わる。だが、俺は顔を上げないまま、黙っていた。

 立場は不利だ。

 結局、俺は兄さんには勝てないことは分かっていた。しかしそれでも俺は顔を上げて兄さんの視線を受け止める。

 しばらく、無言の時間が続く。

 俺は、最後まで隠し通すと決めていたのに、沈黙に耐えられず、ついに言ってしまった。


「兄さんの名前が書いてあるカップアイス食べたのは俺です本当にごめんなさい」


 俺は、テーブルに額を擦り付ける勢いで謝り倒した。

 もちろん、ここのお金を俺が払ったのは言うまでもない。

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