1-4話 信長包囲網
非常に情けない話だが、再興したばかりの幕府は何もかもが足りなかった。軍事面もそうだが、財政面でも何かと頼りなかった。軍事を賄うためにはお金がいるし、お金を増やすにはお金がいる。だが、それを用意するための財政は壊滅的だった。そこで上洛を手伝ってくれた信長の援助は幕府にとって欠かせない存在だった。
「大樹様、何度も言っておりますが、諸大名に書状を出す際はこの信長に一度目を通させてください。急に送られた大名は混乱しますし、もし粗相があれば責任を取るのは私ではなく、大樹様ですよ!」
「わ、わかっておる……」
信長が行ったのは軍事や金銭の援助だけではない。義昭は元々僧侶として育てられていたため、武士のことも公家のことも何一つ分からなかった。幕臣にはそちらの面に精通した者がいない訳でもないが、新たに将軍となった義昭もよく把握しておく必要がある。その事については義昭も理解しているつもりだが、やはり心配がある。そこで信長の立てた原則に則って義昭は動く必要があった。
信長の働きは期待以上だ。軍事でも財政でも何かと面倒を見ていてくれるし、義昭の将軍としての礼儀作法まで教えてくれる。今までにここまでしてくれた大名などいただろうか。義昭は信長の言動にますます感心するようになったのだった。
人とは不思議なものだ。期待以上の働きは、普通は人を感心させ、感謝させるものだ。このままであれば、信長はもっと働きが認めて貰えるはずだ。しかし、それと共に人々は感じるのだ。不安という感情を。
「これでは信長に乗っ取られてしまうじゃないか」
幕臣の一人が確かにそう言ったのだ。
信長は幕府からしたら英雄だ。だが、どの国でも英雄というのは危険視されてしまうものなのだ。
「大樹様! どうかお決めください!」
「う、うむ……」
実際信長の行動は懐疑的だった。将軍やその幕臣に己の身の程もわきまえずに物申してくる。これは無礼千万といわれてもおかしくないことではないか。義昭も信長については彼がいなければ、幕府再興などならなかったと内心はそう理解している。
「大樹様! このまま信長めに将軍職を奪われても構わないのですか!」
「大樹様! どうかお決めください!」
毎日のように幕臣に言われてしまえばいい加減義昭もうんざりするところだ。だが、それと同時に信長に対して疑心暗鬼になってきてしまってきている。きっと信長も義昭のことを思って言ってくれているはずだ。それでも疑ってしまう原因は義昭の中にある恐怖心に打ち勝つことのできない弱さにあった。
「確かにそうかもしれないな……」
義昭は幕臣たちの言葉うなずくことしかできなくなっていた。
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