ドキドキ採点タイム! ココロぐるぐる、先輩の感想は未来への招待状!?
ふわふわ……どきどき……。
昨日のバレンタインデーの出来事が、まだわたしの頭の中をぐるぐる回ってる。先輩、わたしのチョコ、受け取ってくれた……! 耳、真っ赤だったなぁ……。えへへ……。
そんなことを考えながら歩いていたら、今日の授業は、なんだかあっという間に終わっちゃった。放課後、帰り支度をしながらも、わたしの心は落ち着かない。だって、一番気になるのは……。
(せ、先輩、チョコレート、食べてくれたかなぁ……? ど、どんな味だったって思ったかなぁ……? お、美味しくなかったら、どうしよう……! うぅ、聞くのこわいよぅ……!)
昨日あれだけ勇気を出したのに、今日のわたしは、また、いつもの、ちっちゃなカタツムリさんみたいに、殻に閉じこもりそうになってる。
とぼとぼと昇降口に向かっていると、ちょうど下駄箱のところで、ばったり! あの、見慣れた後ろ姿に出会っちゃった!
(あ! せんぱいだ!)
心臓が、どくん!って、大きく跳ねた。ど、どうしよう! 今、声をかけるべき? それとも、気づかないふりして……? あたふた、あたふた!
わたしが、固まって動けなくなってると、先輩が、ふいにこちらを振り返った。……あ、目が合っちゃった!
「おやおや、小鞠ちゃんじゃないか。そんな、背後霊のように気配を消して、僕の動向を窺っているとは。さては、昨日の『贈り物』の効果が不十分だった場合に備え、第二、第三の攻撃を仕掛けようと、タイミングを見計らっているのかね?」
ひゃあっ!? やっぱり、気づかれてた! しかも、攻撃だなんて、ひどいよぅ!
「せ、せんぱい! ち、ちがいますぅ! 背後霊じゃありません! 攻撃もしません!」
わたしの声は、しどろもどろで、きっと顔は、また真っ赤になってるはず! もう、先輩ったら、どうして、わたしの気持ち、ぜんぶお見通しみたいに、からかってくるのかなぁ?
「ほう? そうかね? だが、その、僕と目が合った瞬間に、まるでカエルに睨まれたヘビのように硬直する様は、どう考えても、平常心とは程遠い状態だが。……さては、昨日の『物体X』に対する、僕からの審判を待っている、と。そういうことだろう?」
し、審判……!?
どきどきどきどき!!! 心臓が、今、とんでもない速さで、ばくばく鳴ってる! き、聞きたいような、聞きたくないような……!
おそるおそる、先輩の顔色をうかがうと、先輩は、いつもの、にやり、とした笑顔。うぅ、これは、やっぱり、手厳しい評価が……?
「あ、あの……! べ、別に、審判なんて……! た、ただ、その、お口に、合ったかなぁ……なんて……」
か細い声で、なんとか聞いてみる。もう、心臓が、きゅーって縮こまっちゃいそうだよぅ……!
先輩は、ふむ、と、わざとらしく腕を組んで、少しだけ天井を見上げた。
「ほう、味、ねぇ。そうだな……。まず、食感だが、手作り特有の、なんというか……素朴、といえば聞こえはいいが、やや均一性に欠ける、荒削りな歯触りだったな。プロの仕事とは、明らかに一線を画すレベルだ」
がーん……! あ、荒削り……。しょんぼり……。
「次に、味。これは……そうだな……。ひたすらに甘い。甘さの純度が高いというか、他の要素が入り込む隙を与えない、ある種の潔さすら感じる甘さだった。……正直、僕の洗練された味覚には、少々、刺激が強すぎたと言わざるを得ない」
し、刺激が強すぎた……。やっぱり、ダメだったんだ……。
もう、涙が、ぽろって、靴の上に落ちちゃいそう。わたしが、ぐすん、って鼻をすすり上げると、先輩は、ちらっとわたしの顔を見て、少しだけ、慌てたように言葉を続けた。
「……だ、だが、なんだ。その……。妙に、後を引くというか……。食べ終わった後、不覚にも、もう一つ、と手が伸びかけた自分に、若干の自己嫌悪を覚えたくらいだ」
え……? いま、なんて……? もう一つ、って……?
わたしが、ぽかん、として顔を上げると、先輩は、わざとらしく、ぷいっ、と顔を逸らした! でも、その逸らした先の耳が、昨日みたいに、じわーっと赤く染まっていくのを、わたし、見ちゃったんだ!
「そ、それに、あの熊だ! あの、やけに目が真剣な熊の形状! あれは、一体、どういう意図なんだ? まるで、食べる側を、じっと監視しているかのようで、落ち着かなかったぞ!」
く、熊さん、目が真剣……? わたし、一生懸命かわいく描いたつもりだったのに……!
「か、かわいく作ったつもりなんです!」
「可愛い、の基準が、そもそも僕とは異なっているのだろうな。……まあ、なんだ。その……造形自体は、きみにしては、まあ、悪くなかったんじゃないか」
わるく、なかった……?
(きゅんっ! きゅんっ! きゅんっ! きゅんっ! きゅんっ!)
もう、だめだよう! 先輩の言葉は、いつも意地悪だけど、その中に隠れてる、ほんのちょっとの「悪くない」が、わたしにとっては、最高の褒め言葉なんだもん! 嬉しくて、顔が、にへへ~って、だらしなく笑っちゃってるのが自分でもわかる!
「ほ、ほんとうですか!? 嬉しいです!」
ぱぁっと笑顔になると、先輩は、「だから、大声を出すな!」と、さらに耳を赤くして、後ずさった。
「……と、とにかく! 僕の感想は以上だ! これに懲りて、来年は、もう少し、万人受けする、穏当な甘さと形状のものを……いや、そもそも、僕に寄越す必要はない!」
らいねん……! やっぱり、来年のこと、言ってくれた!
「……まあ、なんだ。その……。礼くらいは、言っておいてやる。……ごちそうさま」
最後、すごく小さな声で、でも、はっきりと、先輩はそう言ってくれた。
(ごちそうさま……! きゃー!!!)
先輩は、それだけ言うと、自分の靴を慌てて履き替え、またしても、逃げるように昇降口を出て行ってしまった。
一人になった昇降口。まだ、胸のどきどきが、幸せなメロディみたいに鳴り響いている。先輩の、意地悪だけど、ちょっとだけ具体的な感想と、真っ赤だった耳、そして、最後の「ごちそうさま」。全部、全部、宝物だ。
(先輩、ありがとう……! 「悪くなかった」も、「ごちそうさま」も、すごく、すごく、嬉しかったなぁ……! 来年は、熊さんの目、もっと優しく描こうかな……? えへへ……!)
今日の出来事も、もちろん、ぜーんぶ、わたしの宝箱に、キラキラした思い出として、昨日とは違う輝きで、大切にしまうんだ。バレンタインの翌日、ドキドキの感想リテイク、先輩のツンデレ評価と、最高に嬉しい「ごちそうさま」、そして、未来への、甘い甘い期待。
また明日、先輩に会える。そう思うだけで、わたしの心は、温かいココアにマシュマロを浮かべた時みたいに、ふわふわ、とろけるように、幸せな気持ちでいっぱいになるんだ。
たとえ、明日もまた、先輩に「やれやれ、僕のリップサービスを真に受けて、有頂天になっているようだな、単純なやつめ」なんて、必死に照れ隠しをしてきても、もう、その赤くなった耳を見れば、全部お見通しですからね!
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