第13話 悪役令嬢を演じたいのに13

 庭に白いテーブルと椅子が用意されて、なんかもう“お茶会”がスタンバイ。


 こういう所はしっかりしてるから、うちの家の人たちは有能なんだろうなあ、とアタシは思って居る。

 だがしかし、その代表格たる母ちゃんが、アタシを自分の膝上にセッティング。

 至近距離。密着。ガン見。


 つまりアタシは今現在――母ちゃんの膝の上にいる。


 前回のユスティーナとのお茶会のときは、遠巻きにとうとみ泣きしてたじゃん?

 なにこの急な密着戦法。


 戸惑っていると、母ちゃんが真顔のまま、アタシの顔の横へ自分の頬を添える。

 そしてそのまま、上下に頬ずりを始める。

 しかし母ちゃんの目は鋭く、その表情は真剣、動きは全力。


「ヴぇヴぇヴぇヴぇヴぇヴぇ……」


 お約束の声が、アタシの口から漏れ出して来る。

 真顔で、無言で、全力頬ずり。

 アタシの頬、その内削れて無くなるんじゃねえの?


「ちょヴぇヴぇヴぇママヴぇヴぇヴぇおちおちおちヴぇヴぇヴぇ」


 なんで!?

 王子の前で!?

 目つきめっちゃキマってるのに、やってることは赤ちゃん対応!


 そんな中、王子が開口一番、超軽やかにこう言った。


「いやぁ~、何度お手紙を出しても、返事がこないもので」


 ……自分で言うのも何だが、普通に異常な風景だと思うけどなあ。

 よくもまあ、そんなコメント出せるもんだ、王子。


 しかし、その言葉を聞いた瞬間、母ちゃんがぴくりと頬ずりを止める。

 そして作り笑顔のまま、さらっと凶器を投下した。


「おほほ……お城からのお手紙は、内容問わず、封蝋ふうろう如何いかなる仕様だろうと、全てゴミ箱ですわぁ~♪」


 ……え。


 周囲の空気、一瞬で氷点下。

 うちの侍女達も、王子側の侍女や護衛も、目をそらして石像化してる。


 王子だけが「なるほど!」とか言いながら微笑んでいるけど……マジかお前。


 んーそもそも、母ちゃんほんっとお城の人たち嫌いなんだよなあ。

 理由もよくわからないし、原作でも実際、そこまで深堀り描写してないからなぁ。


 そもそも原作ゲームの時点で、

 この悪役令嬢パレスと王子がどうやって婚約に至ったのか?


 ――実は、よく分かってない。


 イベントもスチルもなかったし、気づいたらもう婚約者扱いでオホーホだった。


 一応、家柄的には王子の方が圧倒的に上。


 だからまあ、王子が何かの拍子で。

『このパレスとやらの女の子とケコーンするのである!』

 とか言い出したら、すぐアタシも。

『おーっほっほっほ、王子にしては見る目があるんじゃなくて?』

 とか、そんな流れになったんじゃねえかな、たぶん。


 つまり――

 アタシの魅力で王子をメロメロにすれば、あとは勝手に婚約者てこった。


 ……まず、そのためには。


 あたしの横で暴走してる母ちゃんを、すこし落ち着かせないと。

 とりあえず、あざと可愛い振る舞いでも見せつけて、意識をそらす作戦でいく。


 その代償に、あたしのメンタルは、かなりファッキンで死ぬけど。


「も、もうママ! おかおすりすり、やーやーなのですっ!」


 あざかわ全開で抗議すると、母ちゃんの目がカッと見開かれた。


「あ、ああッ! こんな場所でそんな、きゃわわな振る舞い良くなくってよ!

 あの目の前のクソバカ王家の目に留まったら、とんでもない事になるのよぅ!」


 ……その王家の子供に、クソバカ言うなや。

 鬱になる前に、家の未来が不安になるわ。


 そっと王子のほうへ、横目で視線を向けると、母ちゃんの言葉なんてどこ吹く風。

 王子はにこにこ。


 その瞬間――

 首を「ぐきぃっ!」と横から戻された。


「い、いけないわパレス! 王子に誘惑の長し目なんてッ!

 ああっ……なんて罪な子……可愛いに手足が生えて自走し始めてる……!」


「く、くびいてぇ……」


 この母親、マジあかんでぇ……もう、こうなったら強行突破だ。


 よっこらせとでも言いたくなる体勢で、なんとか母ちゃんの膝上から抜け出す。

 このまま母ちゃんが近くにいたんじゃ、王子とまともに話もできやしねぇ。

 しょうがない、引き離すか。


 そのまま王子の席に駆け寄り、手をがしっとつかんで走り出す。


「よし、こっちこいっ!」


「わ、わわわっ!?」

 アタシの不意な行動に戸惑いつつ、何とかついてくる王子。


「ぱ、パレスちゃああん!?」

 そして不意を突かれたのか、ドレスの重さも相まって、初動が遅れ叫ぶ母。


 何か王子の戸惑い顔なんて、初めてだな。

「あはははは、おうじ、びっくりがお、はじめて!」


 ドレスのせいで追いつけない母ちゃんを背に、庭を駆けていく。

 王子もつられて笑いだしていた。


「あははははは!」

「あ、あはははは!」


 少し距離を取れたところで、息を整え、王子に正面から向き直る。


「さて、とりあえずあんたを、今からメロメロにくどかせていただきますわ!」


 王子は一瞬、目をぱちくりさせて。


「は?」


 でもアタシは止まらない。


「おほーほ! メロメロになったあかつきには、このあてくしが、こんやくしゃに ――ぶろおっ!」


 横から吹き飛ぶ衝撃。タックル。いや、母ちゃんだ。

 芝生を転がるアタシを、母ちゃんはそのまま拾い上げ、肩に担いで屋敷へ向かう。


「ちょ、いまからおうじ、メロメロにするのにぃぃぃぃ!」


「……え? えええええ?」


 ◆ ◆ ◆


 庭の中央に取り残された王子がようやく声を出す。

 王子の側仕えの侍女が静かにぽつりと呟いた。


「……あー。どういうことでしょうかね?」


「ええええええええええええええええ!?」


 庭に王子の悲鳴が響いた。

 そして、わたしの“悪役令嬢ごっこ”はまたしても、思いもよらぬ方向へと転がっていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る