乙女ゲームに転生したあたしは惜しカプの為に悪役令嬢を演じたいのに、同じく転生者の母は私を悪役令嬢にしないように頑張る。ファッキン
改易庇護之介
第1話 悪役令嬢を演じたいのに1
『安心しなさいな、今更貴女をどうこうするつもりも無いわ』
『それでも私は貴女への行い全て、間違っていたと反省するつもりも御座いませんの』
『そして、私はただ……ランスロット王子の、幸せの為だけに、この身を引かせて頂きますわ』
その台詞の後に、紫の花びらが夜空に舞い、気高く一礼し去る一人の女性のスチル。
そしてその流れから、ランスロット王子とヒロインが抱き合って月明かりの城の中庭でキスしてエンド。
王子の金髪と、ヒロインのふわふわなピンクの髪が、月明かりの下できれいな絵だったなあ……。
なにこれ、もう……しゅき。
えがった……感動した。
最初は乙女ゲーとやらを馬鹿にしてたけど、やってみるとこれが案外面白くて、何時からか、夢中になってスマホを、たぷたぷしていたなぁ……。
いやーやっぱり、この女の退場シーンから、お城の中庭でのハッピーエンドの流れは何度やってもたまんねえなぁ……ああ、バイト行きたくねぇなあ!
このまま余韻に浸ってどろどろしててえなあ!
まあ、そんなん言ってもしゃあないな、そろそろ向かうか……って雨かあ、こんな日にバイク乗るのもしんどいなあ。でも乗らないと遅刻だしなあ……はぁ。
――って所までの十六年間の人生を思い出した。
何故か幼女になったあたしは、ベッドの上でずきずきと痛む頭に意識を向けつつ、それでも自分の脳内にそれまでの、いや以前のと言った方がいいのか、その時の記憶を思い出す。
「あたし、あくやくれいじょう」
以前の私は、いやあたしは街にその悪名を轟かせる、
『
この名前で街を肩で風を切って歩き、目線を
そんな自分の、他の人には言えない隠れた趣味、そう……乙女ゲーム。
『風のリグレット~君想う故に我有り~』
なーんて最初はトンチキで狂った馬鹿な名前のゲームだな、くらいに最初は思ってたが、プレイしてみるとあら不思議。
喧嘩ばかりで、豚骨の香りしかしねぇあたしの日常に、あまおうの香りする風が吹き抜けた。
それまでは恋なんて面倒だ、なーんて考えていたけど、このゲームには自分の中の恋への憧れにガソリン
かといってあたしのハートにファッキンずぶりと突き刺さったのはヒロインのほうじゃなく、
『パレスフィールド・エイトレディ』
皆に『パレス』って呼ばれてたな。
そして、ランスロット王子の婚約者で、いわゆる一つの、あるあるな悪役令嬢って奴だな。
その姿は金髪で赤いリボンで、両側に
そしてヒロイン
だけど、その
『そして、私はただ……ランスロット王子の、幸せの為だけに、この身を引かせて頂きますわ』
と、その金髪を
まあ、今はちんちくりんの四歳児なんだけどな。
それが今のあたし。
あれ? でも頭の両脇に装備している筈の、ぐるぐるツインテールが無いな……。
まあ寝床であんな、ウェルカムドリルな髪型してたら、邪魔なんだろうねえ。
まあ一応状況整理しとくか。
そしてこのあたしへの影響が最も大きいと考えられる二人、そう……パレスの両親だ。
先ずは父親の『アローフィールド・エイトレディ爵。』
見た目は青い髪で美しい男性だが、見た目とはうらはらにその性格は
その
そしてもう一人……これがかなり
通称:カーサ。いわゆるあたしのこの世界の実の母親。
カーサの一枚絵のスチルも強烈だったなぁ……あの鋭い目つきと、血の様な赤い紅、今のあたしと同じ金髪の緩やかなウェーブの髪だっけか。
アロー公爵とカーサの夫婦は、こういう貴族あるあるな政略結婚で、二人の間には愛情は無いという設定。
しかもアロー公爵は男児を求めていたが、あたしが女の子って事でまったく興味を示さず、子育ては基本放置。
しかしカーサはその公爵の対応に心痛め、ならばとあたしを王子の婚約者とするべく、あたしに徹底的に教育を行い、そして
だけどパレスが婚約を
その後は特にゲーム内で語られる事も無く、居なくなってたな。
そしてアロー公爵は、自分の娘を辺境の修道院に、アディオス追放という流れだったか。
「それにしても、あたし、めちゃくそきゃわわ」
鏡の前であはんや、うふんとポージング、うん可愛いなおい!
これは王子の婚約者って
というか……このフリフリの寝巻、似合わなくね? これあたしの、パレスのきつめの顔に似合わねえんじゃねえかなあ。
しかも部屋の中、こってこての乙女趣味だな、どーんとしたぬいぐるみに、ピンキーなレースが散りばめられて、何か……こう
もしかしたらまだこの時は、スパルタな教育の段階じゃなくて、目に入れて
まあそれでも、あのシーン見たいなあ……あの月夜の中庭で、花弁が舞うその中をヒロインと王子が抱き合い、キスを……でぇへへ。
「おーっほっほっほ、このあてくしをだれとおおもいで?
あてくしはぱれす、ぱれすひーるど。」
イケるな、うん。完璧じゃねえか、うん。
うっし、どうせこんなあたしが貴族社会で上手くやっていける訳ねーんだし、とりあえず悪役令嬢って奴になり切って、そのシーンを見た後に、適当にそこいらで仕事して生きるか! よし、決まっ――。
がちゃーん
「ん?」
「お、おおお、奥様ぁぁぁぁ! 旦那様ぁぁぁぁ! お嬢様が、パレスお嬢様がお目覚めになりましたぁぁ! アァァァァーッ!」
メイドって奴か? あれ。しっかしガラスの水差しやら何やらが床に散らばって、ああもう、どこ行ったんだ?
しっかし変な奇声上げるもんだな……。でも鏡の前でお嬢様ごっこしていたのを見られたのなら、ちと恥ずかしいな。
って、何かどえらい足音が……ってオイ! で、でかい男と女がこっちに向かって走っ――ぷぎゅえ!
「私の天使ぃぃぃぃ!
パレスちゃんパレスちゃんパレスちゃーーーん!」
「マイスイートパレス! 大丈夫か?
ほら、こっちを向いてくれ、パレス……ああ、我が家の天使が、天使が目覚めた……ああ、神よ」
「は、はなせ……ふぁっきん。がくり」
それがあたしの、
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