おせっかい旅人タローの野暮用 竜人族の国にて

飯田沢うま男

タローの観光旅行

第1話 いやー、これは穏やかじゃないですねー。

 いくつもの異世界を渡り歩き、数えきれないほどの冒険をしてきた青年、タロー。その振る舞いは飄々として掴みどころがなく、どんな状況においても冷静さを崩さない不思議な雰囲気をまとっている。そんな彼が今回訪れたのは、辺境に位置する竜人族の国だった。


 この国の歴史は、人間たちとの激しい争いの末に始まった。かつて竜人族は、人間から迫害を受け、自らの住処を追われる日々を過ごしていた。しかし、彼らはやがて団結し、自らの手でこの国を築き上げた。ここでは、人間への深い不信感が未だに根強く残っており、外部の者が踏み入れることは極めて稀だった。


「ここは竜人族が暮らす国ですかねー?なんだかやけに私に対する視線が痛いですねー。」

 タローはのんきな口調で呟いた。竜人族たちの警戒心に満ちた視線が、通りを歩く彼の背中に突き刺さっているのを感じる。異質な存在である彼がこの国を訪れたことは、当然ながら住民たちの興味と警戒心を一斉に引き起こしていた。


 やがて、耐えきれなくなったのか、怒りに満ちた表情をした若い竜人がタローの前に立ちはだかった。鋭い爪を構え、一瞬の躊躇もなく飛びかかってくる。


「おやおや、これが竜人族式の挨拶なんですかねー?これはいけませんねー。」

 タローは一歩も動かず、手を軽く上げただけだった。次の瞬間、竜人の動きが止まる。

「な、なんだこれは……お前、何をした……!?」


 タローが重力を操る魔法を使い、襲撃者の身体を地面に押し付けていたのだ。その力は強烈だったが、彼らを傷つけることなく、完全に動きを封じている。


「さて、落ち着きましょうか。力ずくでの挨拶もたまには悪くないですが、もっと平和的な挨拶をした方が将来のためになるんじゃないですかねー?」

 タローは相手に向かって穏やかな笑みを浮かべる。その余裕たっぷりの態度に、周囲の竜人たちはざわめいた。普通の人間なら恐れおののく場面でも、タローにはそんな素振りが微塵もない。


「私はごく普通の旅人です。戦いよりもいろんな世界を見て回るのが好きでしてねー。この国に来たのも単純な興味本位なんですよー。敵意はありませんので、ご安心くださいな。」

 襲いかかってきた竜人たちにかけた重力魔法を解いたタロー。竜人族たちの警戒心は解けなかったが、タローの力を目の当たりにしたことによって手出しする者はいなくなった。タローは再びゆっくりと歩き出し、ただその場の空気を楽しむかのように穏やかな態度を保っていた。


 こうして、異世界を渡り歩く旅人・タローの新たな物語が、この辺境の竜人族の国で幕を開けるのだった。彼の飄々とした態度が、この国に何をもたらすのか。それはまだ誰にもわからない。

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