第15話

――ロゼッタとの日常:二日目――


【廃品回収】!


……


【廃品回収】!


……


それから数日、ロゼッタとレイトの奇妙なダンジョン配信は続いた。

モンスターとの戦闘にもだいぶ慣れた一人と一体(主に戦うのはロゼッタなのだが)は、お掃除といいつつ【廃品回収】を適当に使うだけのお散歩配信となっていた。


「そろそろ【リサイクルボックス】の中も増えてきたしここらで一度整理しとこうか」

【リスト】!


相変わらず色々なものが詰まっている【リサイクルボックス】だが、その中にたまに見かける『』のついたアイテムに気を引かれる。


「そういえばこのレアっぽいアイテム系…【ニコイチ】してみるか…ん?」


ふと思い当たる、一度【ニコイチ】したものにもう一度【ニコイチ】をするとどうなるのか。


もっと言えば『ロゼッタ』に【ニコイチ】した場合どうなるのか……


「なぁロゼッタ。お前にもう一度【ニコイチ】したらどうなるんだ?」


「1/2ニ1/2ヲタシテ1ニシテ、サラニ1/2ニシテ1/2ヲタスノデ……1デショウカ?」


「うん、ごめん、何言ってるかわからない!」

「とりあえず他のもので試してみるか、ロゼッタ、ロックリザードのナイフ貸して」


「ショウチシマシタ」


ロゼッタはスカートに手を入れ太もものベルトから【ニコイチ】で作られたロックリザードのナイフを引き抜くとレイトに渡した。


『太もも!』

『パンツ見えた!?』

『サービス回!』

『保存しました』

『保存しました』

『保存しました』

『通報しました』


レイトはナイフを受け取ると【リスト】から合成するアイテムを選ぶ。

相変わらず回収した覚えのないものが並ぶ中、『魔光石』を見つけた。


「お、こいつは丁度良さそう」

【ニコイチ】!


手に持ったナイフと【リスト】の『魔光石』を意識して【ニコイチ】を発動する。

ナイフはできるだけそのままにしたいので、そこは集中しておく。

ナイフが輝き【ニコイチ】が始まる。

『魔光石』がナイフの刃部分、しかも芯になるようにイメージを浮かべ集中する。

光が消えレイトの手元には…


「おぉ、手に持ってても発動するんだな。」


以前は【リサイクルボックス】内に回収されている物品同士での【ニコイチ】しか試していなかったので新しい使い方ができたことに喜色が浮かぶ。

そして出来上がったナイフは以前と変わりないように見えるがレイトが魔力を流してみるとナイフ自体が輝き出した。


『光るナイフw』

『イラネーwww』

『いや、まて魔力の消費量次第では便利かも?』

『ランタン持たなくて済む?』

『魔光石って魔導ランタンの中身だよな』

『暗いダンジョンとかだと明かりは必須だしな』

『これなら暗いとこでの不意打ちにも対応できそう』


コメントも沸いているがレイトは実験がうまく行ったことで喜びも一入だ。


「意識してればある程度合成の方向性は選べそうだな、ランダムよりよっぽどいいぜ!」

「そしてこの使い方ができれば……ロゼッタの魔改造待ったなしだ!!!」


『ナンダッテー!』

『その手があったか!』

『ロゼッタちゃん逃げて―!』

『あなたが神か!!!』


レイトはロゼッタの成長を促すため、まずは何を合成すれば良いか悩みはじめる。


「うーん…ロゼッタの思考ってどうやってるんだろう?ロゼッタはどうやったら頭が良くなる?」


『魚を食べさせる!』

『睡眠を取るとか』

『人造ゴーレムの場合は神経系の変わりにミスリルを使うぞ』

『ウンチクニキ登場!!』

『確かに脳も神経伝達といえばそうか』

『あとは普通に電気伝導率の高い金属だな』

『銀や、銅、金なんかも使うね』


「ほう?ミスリルね…あったかな…」

【リスト】!


カースドールと天然ゴーレムで作られたロゼッタなら鉱石や金属類を合成すれば強化できそうなのはイメージしやすい。

【リスト】をスクロールし金属類を探す。

そこにはやはりいつの間にか回収している金属達が表示されていた。


「ミスリルにアダマンタイト、タングステンに雲母……あれ?これって……、まぁいいや、まずはミスリルだ!」

【ニコイチ】!


ロゼッタの肩に手を触れ【ニコイチ】で異空間に回収していたミスリルをロゼッタに合成する。

光が収まりロゼッタの外見は変わりがないように見えた。


「よし、ロゼッタ、これで少しは頭が良くなったはずだぞ。どうだ?」


ロゼッタは微かに首を傾げた後、以前より少し滑らかな言葉で答える。


「…ゴしゅじんサマ、私ノチュウセイはエイエンに…」


まだカタコトだが、以前より抑揚がつきなめらかにがなってきている。


『お!ちょっと喋れるようになった!』

『成長してる!』

『すごいぞニコイチ!』


視聴者もロゼッタの成長に気づき、興奮する。


「おっけーい!いける、これならガンガンいけるぞ!」

【ニコイチ】!

【ニコイチ】!

【ニコイチ】!


追加でミスリル、銅、銀、金といった鉱石を合成していく。

金はもったいない気もするがそれより高価なミスリルも合成しているのだしロゼッタのためならと惜しみなく注ぎ込む。

高速伝導が必要な脳はミスリルを多く使用し、魔力を生み出す魔鉄鋼を少しだけ加える。

身体に伸ばす神経をイメージし脊髄付近に金を多め、太い神経に銀、末梢神経に銅とイメージしていく。

イメージ通りに構成されるわけでは無いだろうがそこは気分とロゼッタに込めた愛情だ。


………………

…………

……



「ありがとうございます、御主人様。永遠の忠誠と、主の矛と盾となることをここに誓います」


これまでより更に綺麗なカーテシーを行うロゼッタ。

その口調は普通の人間と変わらないどころか、その鈴のような声色も伴い聞いたものを魅了する、セイレーンをも想わせるようだ。


「おう!これからも頼むぞロゼッタ!」


『ロゼッタちゃん普通に喋れるようになってる!』

『完璧なメイドだ!』

『感動した!』

『レイトさん、すげぇ!!』

『ロゼッタちゃん、もう人間じゃん!』

『一家に一台ロゼッタちゃん』

『ぜひ売ってくれ―!!!』


「売らん売らん!、ロゼッタがいないと俺がダンジョンに潜れないじゃないか!」


一瞬カースドールとゴーレムの合成でロゼッタの量産を思いつくも色々と面倒になることに思い至り思考を中断する。


「いやぁ…しかしのどが渇いたな…ロゼッタ!なにか飲み物を頼めるか?」


「承知しました、少々お待ちください」


ロゼッタは何かを探し歩き始めると、近くに落ちていた空き瓶を拾い上げた。

そしておもむろに石壁に生えた苔をむしり取り始める。

それを手のひらでギュッと絞り、緑色の液体を瓶に集める。

毟る、絞る、毟る、絞る、毟る、絞る、毟る、絞る、毟る、絞る………


「…御主人様、お待たせ致しました。お飲み物でございます。」


『苔茶wwwwwwwww』

『ロゼッタちゃん、それは違う!』

『飲めるかよwww』

『真顔で毒物www』

『ご主人様、死ぬぞ!』

『ロゼッタちゃん、可愛いけどやばいwww』

『純粋すぎるんだよなぁ』

『ご主人様、困ってるwww』

『飲んでみろよwww』

『漢なら飲め!』


レイトは差し出された緑色の液体に顔を引きつらせながらも、ロゼッタの純粋な奉仕の心に、どこか温かいものを感じた。

言葉は成長しても、命令の解釈は相変わらずのようでこれは頭の良さの問題ではなくロゼッタの素の性質なのかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る