第26話 鬼教官の特別授業! 憧れと嫉妬とサバイバル!?
楽しかった(主にぽこさんと俺の心臓が)夏休みも終わり、忍ヶ丘学園には再び授業の鐘が鳴り響く。…まあ、俺たちのクラスに限っては、休み中も大して変わらないメンバーで騒がしい日々を送っていたわけだが。
そして今日の実技授業は、あの鬼教官・犬飼ゲンゴロウ先生による特別授業だという。テーマは「あらゆる状況下における生存術(サバイバル)」。訓練場に集められた俺たち一年生の間には、早くもピリピリとした緊張感が漂っていた。犬飼先生の授業は、とにかく厳しいことで有名なのだ。
「今日の授業では、貴様らが実戦で生き残るための最低限の知識と技術を叩き込んでやる! まずは食料調達! 周囲の森から、毒草と食用可能な野草を正確に見分け、採取してこい! 制限時間は30分! よーい、始め!」
先生の号令と共に、生徒たちは一斉に森へと散っていく。俺も教科書で習った知識を必死に思い出しながら、食べられそうな草を探し始めた。
「おお! ゲンゴロウ先生の特別授業でござるか! 張り切るでござるぞ!」
そんな中、一人だけテンションがおかしいのが、狸谷ぽこさんだ。憧れの犬飼先生の授業とあって、そのタヌキ耳は期待にぴこぴこと動き、尻尾は嬉しそうに左右に揺れている。…頼むから、空回りだけはしないでくれよ…!
だが、俺の祈りなど、この狸娘には届かない。
「先生! この真っ赤で綺麗なキノコ、美味しそうでござる!」
数分後、ぽこさんは満面の笑みで、見るからに毒々しい色のキノコを犬飼先生の元へ持っていった。
「馬鹿者! それは猛毒の『ベニテングダケ』だ! 食えば三途の川が見えるわ!」
「ひえっ!?」
「先生! このキラキラ光る実は、きっと珍味でござる!」
次に持ってきたのは、怪しく紫に光る謎の木の実。
「それは幻覚作用のある『マヨイグサの実』だ! 一粒でも食えば、三日三晩悪夢を見るぞ!」
「ひぃぃぃ!?」
「先生! この葉っぱ、なんだかいい匂いが…」
「それは『ウルシ』だ! 触るな!!」
「ぽんぽこ!?」
……ぽこさん、頼むからもう何も採ってこないでくれ! 先生に鑑定させる前に、俺の寿命が縮む!
彼女は先生にかっこいいところを見せたい一心なのだろうが、やることなすこと全てが裏目に出ている。先生の「狸谷ィ!」という怒声が、森の中に何度もこだましていた。
俺はそんなぽこさんの様子が気になって仕方がない。
「ぽこさん、それは食べられませんよ!」
「ぽこさん、そっちはウルシの群生地ですから!」
「ぽこさん、だからキノコは諦めてくださいって!」
毒草を口に入れようとするのを慌てて止めたり、怪しい茂みから引っ張り出したり、俺は自分の課題そっちのけで、彼女のフォローに走り回っていた。
(はぁ…なんで俺は、この人の世話ばかり焼いてるんだ…?)
自問自答するが、答えは分かっている。放っておけないのだ。そのドジっぷりも、一生懸命さも、そして…犬飼先生に向ける、あのキラキラした憧れの眼差しも。
そう、面白くないのだ。ぽこさんが、あんな厳つい先生(失礼!)に、あんな無邪気な尊敬の念を向けているのが。俺だって、勉強なら教えられるし、力だって貸せるのに…!
そんな黒いモヤモヤとした感情が、俺の胸の中で渦巻いていることに、俺自身気づいていた。…みっともないとは思うけどな! これが嫉妬ってやつか!
「あらあら、風間くん。随分と分かりやすいお顔をなさってますこと」
いつの間にか隣に来ていたレイさんが、俺の顔を覗き込んで、意地悪そうに口元を歪めた。
「ぽこさんが犬飼先生に懐いているのが、そんなにお気に召しませんの?」
「なっ!? ち、違いますよ! 俺はただ、ぽこさんが心配で…!」
「フン、どうだか。まあ、あの狸娘が誰に憧れようと、わたくしには関係ありませんけれど」
レイさんはそう言って、ツンとそっぽを向いた。…が、その横顔は、なんだか少しだけ、つまらなそうに見えた。気のせいか?
結局、その日の特別授業は、ぽこさんの空回り(と俺の胃痛)によって、カオスなまま終了した。罠設置訓練では熊用の巨大落とし穴を作り、応急処置訓練では俺を包帯でミイラにし、野営術訓練では…思い出したくもない。
授業後、ヘトヘトになった俺の元へ、ぽこさんが(全く疲れた様子なく)駆け寄ってきた。
「ハヤテ殿! 今日のゲンゴロウ先生も、厳しさの中にドッシリとした愛があって、最高にかっこよかったでござるなぁ!」
その純粋すぎる笑顔に、俺はもう、力なく頷くことしかできなかった。
「は、はぁ…そうですね…」
俺の嫉妬なんて、この能天気なたぬき娘には、きっと永遠に届かないんだろうな…。
ため息と共に、俺の肩ががっくりと落ちた、そんな夏休み明け(あるいは夏休み中)の午後だった。
(続く)
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