第20話 波乱! 個人戦トーナメント! 秘密兵器は…胃袋!?
文化祭の喧騒も過ぎ去り、忍ヶ丘学園に訪れたのは、学生にとって最も忌むべき季節――そう、中間試験期間である。筆記試験はまあ、俺(風間ハヤテ)の得意分野だからいい。問題は、実技試験だ。
今年の一年生の実技中間試験は、なんと「個人戦忍術トーナメント」形式で行われることになった! 各自が日頃の鍛錬の成果を、一対一の真剣勝負(もちろん安全には配慮されている、はず)で披露するという、学園の伝統行事らしい。
「うげっ、実技でトーナメントかよ…苦手なんだよな…」
対戦表が張り出され、俺は自分の名前とその対戦相手を確認して、深いため息をついた。一回戦の相手は、体術が得意なクラスメイトだ。勝てる気がしない…。しかも、トーナメント表をよく見ると、勝ち進めば二回戦でぽこさん、準決勝あたりでレイさんと当たる可能性があるじゃないか! なんだこの地獄の組み合わせは!
「トーナメントでござるか? 勝てば美味しいものがたくさん貰えるでござるか?」
当のぽこさんは、対戦表の前で目を輝かせている。…うん、そういう動機だと思ったよ。
「フン、当然、優勝はこのわたくしですわ。せいぜい一回戦で無様に散らないように励むことですわね、風間くんも、狸谷さんも」
レイさんは相変わらずの自信満々&イヤミ全開だ。まあ、彼女の実力なら優勝も夢じゃないだろう。
そして、トーナメント当日。訓練場に設けられた複数の試合場で、次々と熱い(?)戦いが繰り広げられていく。
レイさんは、その言葉通り、対戦相手を寄せ付けない。猫又ならではの俊敏さとしなやかな体術、そして的確な忍術で相手を翻弄し、あっという間に勝ち進んでいく。まさにエリート、まさにクールビューティー。一部の男子生徒から熱い声援が飛んでいるのが、少しだけ癪に障る。
俺はというと、苦戦の連続だった。一回戦、持ち前の分析力で相手の癖を見抜き、事前に仕掛けておいた(セコい)罠にはめて辛勝。二回戦、これまた得意の暗号解読知識を応用した(よく分からない)撹乱術で相手の判断を誤らせ、なんとか勝利。…実力というより、ほとんど知略(という名の悪あがき)だけで勝ち進んでいる気がする。
そして、いよいよ注目(いろんな意味で)の狸谷ぽこさんの登場だ!
一回戦の相手は、柔道部にいそうなゴツイ体格の男子生徒。誰もが男子生徒の圧勝を予想していた。俺も固唾を飲んで見守る。
試合開始! 男子生徒が猛然と突進し、強力な張り手を繰り出す!
「うおおおっ!」
しかし、ぽこさんはそれを…避けない! そのまま真正面から受け止めた! ボフン!と鈍い音がしたが、ぽこさんはけろりとした顔。
「む? 今、何かしたでござるか? 蚊が止まったかと思ったでござる」
「なっ!?」
男子生徒、唖然。自分の渾身の一撃が全く効いていないことに動揺する。
その隙を見逃さず(?)、ぽこさんが「お返しでござる」と、人差し指で相手の額をぴんっと弾いた。
「あべしっ!!?」
男子生徒は、綺麗な放物線を描いて場外まで吹っ飛んでいった…。
しーーーーん……。
会場全体が静まり返る。…デコピン一発で!?
その後も、ぽこさんの快進撃(という名の珍道中)は続いた。
火遁の術を使う相手には、得意の「食べ物変化」で巨大な水ようかん(!)に変化して火を消し止め、相手が呆然としている隙にタックル!
幻術を使う相手には、「おおー! キラキラして綺麗でござるな!」と術にかかったフリをして近づき、得意の「たぬき寝入り」で油断させてからの、強烈な頭突き!
素早い動きで翻弄してくる相手には、お腹を鳴らして「はらへったでござる~!」と叫びながら暴れまわり、相手が勝手に転んで自滅!
…なんだこれ。忍術でも体術でもない。運と物理と食欲だけで勝ち進んでいるぞ、この狸は!
そして、悪夢は現実となる。準々決勝、俺の対戦相手は、その狸谷ぽこさんになってしまったのだ!
「(ど、どうしよう!? 勝てるわけがない! でも、ここで負けるのも班長として…!)」
俺は必死で作戦を練る。距離を取って、罠と撹乱で…!
「始め!」
試合開始! 俺はすぐに距離を取り、煙玉を投げて視界をくらま…
「つかまえたでござる!」
煙の中から、にゅっとぽこさんの手が出てきて、俺の体をがっちりとホールド! 早い! ていうか見えてないだろ!?
「ぽ、ぽこさん! は、離して…あがががっ!」
ぽこさんが「えいっ」と軽く(本人談)抱きしめただけで、俺の肋骨がミシミシと悲鳴を上げる!
「ま、参った! 参りました!!」
俺はタップする間もなく、白旗を上げた。完敗だった。身も心も(物理的に)砕け散った…。
続く準決勝! ぽこさんの相手は、勝ち進んできた猫宮レイ! 因縁の対決だ!
「フン、狸谷さん。まぐれでここまで来たようですが、それも終わりですわ!」
レイさんは自信満々に言い放ち、試合開始と同時に幻術を発動! 訓練場一面に、美しい花畑の幻影が広がる!
「おおー! お花畑でござる! 綺麗でござるな~!」
ぽこさんは感動している! …かと思いきや、おもむろにその場に座り込み、懐からお弁当(いつの間に!?)を取り出して食べ始めた!
「やっぱり、お花見には三色団子が一番でござるな~! もぐもぐ」
「なっ…!?」
幻術、全く効いてない! しかもピクニック始めやがった!
レイさんが、あまりのマイペースぶりに完全に調子を狂わされ、一瞬動きを止めた、その時!
「ふぅ、満腹でござる」
お弁当を食べ終えて満足したぽこさんが、立ち上がり際に「えいっ」と振ったふさふさの尻尾が、レイさんの頬をクリーンヒット!
「ひゃんっ!?」
バランスを崩したレイさんは、そのまま不覚にも場外へ!
「勝者、狸谷ぽこーーーっ!!」
……嘘だろ?
そして、迎えた決勝戦。相手は学年トップクラスの実力を持つ、真面目そうな男子生徒だ。さすがにここまでか…誰もがそう思った、その時だった。
試合開始の合図と同時に、ぽこさんが叫んだ!
「はらへったでござる~! 忍法・変化の術!」
ポンッ! 巨大などら焼き出現!
相手選手、戦意喪失!「…参りました」
結果――狸谷ぽこ、トーナメント優勝。
表彰台で、優勝トロフィー(もちろん食べられない)をきょとんとした顔で受け取るぽこさん。
「これ、食べられないでござるか? 残念でござる…」
学園の歴史に、新たな(そしておそらく最も奇妙な)伝説が刻まれた瞬間だった。
俺とレイさんは、その隣で、もはや言葉もなく、ただただ遠い目をするしかなかった。
(続く)
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