つらつら短編集【微ファンタジー】

ゆめの

あのこはザムザ

昼休みに一瞬だけ、うとうと寝てしまったのがいけなかったのだろうか。

目が覚めたら、友達が虫になっていた。


「む~、む~、むぅ?」


などと鳴きながら、教室をウニョウニョと動き回っている。


「……なにこれ?」


『何』ではなく『虫』だ。

はっきりとわかる。

わかったとて、だ。


あたしは寝ぼけているのだろうか?

……目を擦り、瞬きをしてみるが結果はかわらない。


どう見ても虫である。

教室にある机ぐらいの……ダンゴムシ?

いや、小さなハサミがあるから、ゲジゲジかもしれない。

しかし、ハサミがあるということは、ゲジゲジですらないわけで……うーん。


まあ、いいか、ゲジゲジで。


ちょうど、昼ご飯にと一個丸々もってきていたリンゴ。

それが視界にはいる。

ぶつけてみる?虫嫌いだし。


「あ、いや、でも」


嫌いな虫とはいえ、あたしの友達でもあるんだ。

いつも、一緒にお弁当を食べている友達だ。


「で。なんで虫になっちゃったの?」

「む~?」

「わかんないか」


あたしはリンゴを机におき、ウニョウニョと動きまわる友達ことゲジゲジを観察する。


「人間が虫になるなんて、きみはザムザか何か?」

「む~」

「とりあえず、助けてあげたほうがいいよね?」

「むぅ?」


あたしは、席を立つ。

すると、ゲジゲジは慌てたように逃げていってしまう。


「あ、待って!」

「む~……」


しかし、すぐに戻ってくる。

そして、近づこうとするとまた逃げていく。

それを繰り返すうちに、教室を出ていってしまった。


そういえば、と思い出す。

あのこはあらゆるものに、影響を受けやすい性格の持ち主だった。


つい最近、四時四十四分に合わせ鏡を実行して異世界に飛ばされたばかりだ。

連れ戻すのに苦労したんだよね。


今回のことだって、もしかして……。

なんか秋だからという理由だけで、読書に目覚めたんじゃ。

そうだとすると、状況的に選んだのは、やっぱりカフカの『変身』だったり?


「ザムザって最後は死ぬんじゃ……」


廊下からたくさんの悲鳴が聞こえてきて、慌ててあたしも教室から飛び出した。

とりあえず、小難しいことは後回しにして、虫になってしまった友達を保護しなきゃ。


友達やめようかな、なんてちょっぴり考えながら……。


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