第21話 旅路 その3
「お姉さん話を聞かせてよ。勿論良いよね?」
「……特に話すようなことは無いよ。」
「断るの?」
「…私は単純に君たちを騙そうとして失敗しただけだからね。何も言うことが無いよ。」
「俺には聞きたいことがあるから聞くけど良いよね?最初が…初めから騙すつもりだったの?」
「そうだね。」
「なんで?」
「生きるためだよ。」
「なんで生きるのに賊になる必要があるの?」
「…お金のためだよ。」
「もっと詳しく聞かせてよ。俺を子どもと思わなくて良いから。」
「……私は元々牧場を経営してたんだよね。」
「お姉さんが?」
「両親から流行り病で死んじゃって受け継いだ感じだよ。」
「それは可哀想だけど何で元々って言ったの?今は?」
「少し前に賊の集団来て…動物も財産も食べ物も奪われて…」
「お姉さんはなんで生きてるの?殺されたりしてないって意味で。」
「私は家の地下に隠れてたからなんとか無事だっただけだよ。地下への入り口は隠されてたからね。」
「地下に物はなかったの?」
「保存食が2週間分くらいあっただけだよ。」
「そっか。牧場の再建は出来ないの?」
「何も無いから無理だよ。」
「そうだとは思ったよ。えー、お姉さんはなんで俺達を狙ったの?」
「子どもなら騙せるからって言われたからだよ。」
「あの2人に?」
「そうだね。」
「あの2人との関係は?」
「少し離れた場所に住んでた知り合いだよ。」
「少し…賊の被害があったの?」
「そうだよ。」
「そっか。それと1つ言いたいんだけど子ども2人でこんなところにいるのがお金を持ってるわけないよ?お金を持ってるならこんなところを歩くことなんてあり得ないからね。仮に騙せたとしても稼ぎなんて出ないよ。」
「私は元牧場主のただの賊だからね。誰を狙えば稼げるかなんて分からないよ。動物たちと街から離れた場所で過ごして生活出来ると思ってたのもあって私は何も知らないからね。」
「お兄ちゃん少し話していい?」
「良いよ。はい。」
「うん!お姉さんはしなくても生活できるなら賊にならなかったの?」
「ならなかったよ。人を襲うなんて魔物と変わらないからね。」
「お姉さんも?」
「変わらないよ。君たちみたいな子どもを騙したんだからね。いや、騙せなかったけどね。」
「お兄ちゃんはいつから気がついてたの?」
「怪しんでたのは初めからだけど……ほぼ確信に変わったのはこの道に入ったところだね。実際はもっと大きな道があるみたいだからね。」
「えっ?」
「お兄ちゃんは私にこれを見せようとしたの?」
「うん。シルは人間を信じすぎてるから安全なところで経験して欲しかったんだよね。」
「お姉さんは何もなかったら平和に暮らしてたの?」
「え…暮らせるならそうしてたよ。」
「お兄ちゃん、人は状況次第で変わるの?」
「変わることもあるし元々悪意の塊のみたいな人も居ると思うよ。勿論逆に善意の塊みたいな人もどこかには居ると思うけどね。」
「動物みたいに考えればいいの?」
「動物…そうだね。動物みたいに個体差があって、状況次第で攻撃的になったりとかそんな感じだからね。ただ動物と違うのは騙してくることだよ。今回みたいに善意を装って罠にかけてくる人も居るから完全に同じとは言えないね。」
「いい人もいるよね?」
「沢山居ると思うよ。」
「難しい…」
「あははっ、俺も手伝うから頑張って悪意を持ってるかどうかの判断の練習をしていこ?」
「うんっ!!」
「お姉さんは……まぁ今回は良いや。好きにして良いよ。お仲間のものを持って帰っても良いしこのまま野宿しても良いよ。」
「え…?私は君たちを殺そうとしたのにどうして…」
「お礼みたいなものだよ。経験をくれたから今回だけは見逃してあげる。それにお姉さんって迷ってなかった?本当にこのまま殺して良いのかって。」
「…少し迷ったよ。でも自分を優先して殺そうとしたんだけどね。」
「多くの人が1番大切なのは自分自身だからそこは仕方ないよ。シル、人を信じすぎないようにね。」
「わかったよ!」
「それなら良かったよ。ということで今回だけは良いよ。」
「………君たちはどこに行く気なのかな?」
「……」
「どうして私たちの目的地を聞いてるの?復讐でもするつもりなの?」
「そんなことしないよ。ただいつかお返しが出来るくらい生活が安定したら助けてくれたお礼をしたいからだよ。」
「……お兄ちゃん?」
「シルはどう思ったの?」
「本当だと思うけど…さっき騙そうとしてきたんだから信じるのは難しいって感じだね!」
「そっか。警戒出来てるようで良かったよ。でも今回は信じて良いと思うよ。それに嘘だったとしてもお姉さんが街の中から俺達を見つけて勝たないといけないからね。まぁ嘘の可能性もあるけど……お姉さんそれって本当?」
「本当だよ。君たちみたいな子どもを騙そうとして失敗して、それなのに助けられて、また騙そうとするなんて……そんなことをしたら自分自身を許せなくなるからね。賊の私が言っても何を言ってるの?ってなるけどね。」
「プライド……大きすぎるのは困るけどこのくらいは無いとダメだよね。俺は言っても良いと思うけどシルはどう?」
「私もだね!」
「分かったよ。俺達は王都に行く途中だよ。」
「え、王都?すごく遠いよ?大丈夫?」
「準備はしてるから大丈夫だよ。それとお姉さん賊に向いてないよ?子どもとかお金になるのに本気で心配してるみたいだけど。」
「向いてない……それは私にも分かってるけど他に出来ることなんてないからね。」
「…お姉さんこれあげるから頑張って。お姉さんはまだ若いんだから頑張ればなんとかなるよ。」
「え?お金…受け取れないよ。」
「シル、人によるけど多くの人は大変な時に受けた恩は簡単には忘れないよ。恩がある人に対して攻撃する人は少ないから恩は売れるときに売った方が良いよ。そうすれば安全性を高められたりするからね。勿論余裕がある時の話だよ。」
「今みたいな時だね!」
「そうだね。今は目的地を言ってるから恩を売って安全性を高められるならそっちの方が良いからね。」
「わかったよ!」
「うん。今の会話を聞いて恩を感じるかは分からないけどそういうことだからあげるよ。」
「………」
「それなら貸してあげる。頑張って生活を安定させてそのうち返してくれれば良いよ。金貨15枚だから……16枚で良いよ。そこまで余裕は無いけど節約すればある程度暮らせると思うからその間に仕事を見つけて収入を得てね。」
「……16枚じゃなくてもっと多くして返すよ。」
「それなら得だね。ここまで言ってまさか返してくれる前に死ぬなんてありえないし。」
「…そんなのして良いわけないからね。勿論だよ。」
「そっか。はい。」
「…ありがとね。絶対に返すよ。」
「期待しておくよ。それよりもお姉さんはこれからどうするの?夜だけど。」
「この辺りは慣れてるから夜でも大丈夫だよ。だから私は早く帰って仕事を探す準備をするよ。」
「分かったよ。頑張ってね。」
「勿論だよ。君たちも頑張ってね。」
「うん!」
「またね。」
「バイバイ!」
「うん。また今度会いに行くから元気に過ごしててね。」
「うん!」
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