第24話 ダンジョンで修業をしよう-2
街道を歩いている影はあるけれど、俺とジジイのち悪を歩いている人影はない。もうちょっと遠い。だから、まあ、こんな話をしていられるわけだ。
「大っぴらにじゃなけりゃ、奴隷だって使えるぜ」
「そういう事は外で口にするんじゃねえよ」
魔法使いの間では、ある程度は知られたことなんだろうな、とは思う。もしくは、道具は誰だって使える、ということなんだろう。けれど面倒臭えことに、世界には立場ってものがあって、世界には序列ってものもあるんだ。それに従うと奴隷は使っちゃダメなもんが多くて、まあその分他の奴が使うわけだから、どうでもいいんだが。
だけどそれを、南の賢者様が口にしちゃだめだろう。面倒くさいことにしかならねえ。
「魔法を使うだけなら、魔法の杖でいいんだよ。詳しい製法やらなんやらは、まあお前も興味ねえだろうから割愛してだな」
「おう」
「魔法の鍵ってのはな、それをさらに使いやすくしたもんなんだよ。魔法使いじゃなくても、使えるって奴だ」
「へえ」
便利なもんがあるんだな、って感想しかねえわ。例えば元々が魔法使いであっても、奴隷に落ちれば魔法は使えねえ。使えねえようにされるんだがなんだかって、聞いたことがある気がする。あの時の俺に必要だったのは、闘技場では使えねえってそれだけの話だ。使いやがったけどな、あのくそアマ。
「さっきの職員が、執拗にベケに行かせようとしてたろ。ありゃあ、ほとんど出ねえな」
「さびれてるんだろうな」
「人のいないダンジョンなんてのは、上がったりだからな。金にならねえ、けれどギルドとしては管理しなきゃらならねえ」
「まあ、帰りに情報集めてみてもいいんじゃねえか」
そこまでなら、問題もないだろう。長居するわけにはいかないが、ちょっと足を延ばして、土産がそれなりに簡単に手に入るなら、それだっていいはずだ。お姫様方が、お土産楽しみにされてるみてえだしな。物の指定はされてねえから、まあなんでもいいだろう。駄目だったら、乳母のオーギュスティーヌが没収するだろ。
ダンジョンは金になる。一回潜れば、底まで行かなくたって、出てくるモンスターを倒して、必要数の討伐の証になるモンを種族ごとに革袋に入れて、提出すればそれだけで路銀だ。道中入手した武器や防具を売ったっていい。俺たちはそれはしていないが、単にジジイが魔法のポーチを持ってるからだ。いくらでも持てるから、売らずに旅を続けることが出来る。でまあ、路銀が足りなくなったところで、売るだけだ。別の場所で売った方が、金になるんだよな。モンスターの討伐証に関してじゃない。あれはそのギルドじゃないと引き取ってくれない。モンスターから手に入れる武器とかだよ。高く売れるの。
ダンジョンをめぐることが、目的ではないしな。それはもっと後の話だ。勇者様を仲間にしてからの。今回はやるかどうか分かんねえんだけどよ。
オベールとエマールの国境までの間に、さらに四つのダンジョンに潜った。目的は路銀だ。王子様方から頂いてはいるが、それには極力手を付けず、ダンジョンでモンスターを狩って、それを当てようとジジイとは話がついていた。その方がそれらしく、勇者様たちからの信頼を得られそうだからだ。
ダンジョンに入り、棍棒を構える。大体同じくらいの時間帯にダンジョンに入ったほかの冒険者は、俺の背負う大きなリュックに驚いて、それから俺の構える棍棒に驚く。まあ単に、まだ付与魔法が得手じゃないだけだ。ジジイみたいに見ただけでそれが何の魔物かなんてわからねえし、そいつが何が弱点か、なんて分からねえ。出来てたまるか。ジジイは南の賢者様なんだぞ。
だから殴って、付与魔法をかけて、殴って倒して、魔法を維持する。殴ってダメージの通りが悪かったら魔法をかけ替えて殴って、維持する。
「まあ本来ならな。同じダンジョンに何べんも潜って覚えてくもんだろうけどな」
「まあそれは、勇者様も交えてやりゃあいい」
「そういうこった」
殴った後、魔法の発動までは順調に短くなっている。やっぱりお前には魔法の鍵が必要そうだから、エマールでダンジョンに潜ろうなと、ジジイに言われた。まあ、魔法の杖もない訳だから、そりゃ発動まで遅いわな。いくら、南の賢者様に教わっているといえど。俺を不肖の弟子扱いするならきちんと教えやがれとごねた甲斐があったってもんだ。
ダンジョンの奥までは行かず、適当なところで切り上げるから、これといってめぼしい宝箱に出会ってはいない。それでいい。目立たないように、ただオベールを抜けるだけだ。
ダンジョンてのは、ダンジョンによっては一切誰にも合わなかったり、めちゃくちゃ誰かと一緒だったりする。オベールにあるダンジョンは、誰かと一緒になるダンジョンが多いようだ。単純に、俺たちが潜ったダンジョンがそうだっただけかもしんねえけどさ。
オベールを抜け、エマールへと入る。国境の町アレオンで一人の男が俺たちを待っていた。ベランジュのジジイの使いだ。ベランジュのジジイもそうだけれど、この男も目の前に来るまで気配は分からねえわその辺の連中と同じように見えるわ。そういう仕事だからって言われりゃ確かにそれまでなんだけどさ。
俺たちは怪しまれないように宿をとり、そこで地図を開く。いや、ジジイの魔法を使えば、広場のど真ん中で歌っていても気にも留められないが、宿をとってから話した方が、周りに気を使う必要すらなくていい。
今後の行程の相談、であることには、変わらねえからな。
「今はまだ、天候も安定しておりますし、借金もそれほどかさんでおりません。今すぐ話しかけたら、少し不審かと思われます」
「ふむ。それで?」
「オーリク村の近くにダンジョンがございますから、村を拠点にしてください」
「でもそれだと、村に金が入っちまうだろ」
「微々たるものです。オーリク村の近隣のダンジョンは、良いアイテムが入手できるわけではないんです。強く珍しいモンスターが出ますが、いかんせんわざわざそのためだけに行くには、冒険者にとって実入りが良くない」
冒険者のギルドもなく、換金のためには近くの町まで出る必要がある。なんだそれ、そんな村に居つくの、不審者じゃねえか。
「一応名目上は、バティストさんが一人でダンジョンを走破する、です」
「ああ、武者修行か。他のヤツの迷惑にならねえように、オーリク村のさびれたダンジョンにしたって」
「そうなります」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます