野営の夜
第六章②
思っていたより豊作だった夜光草にトルベンは気を良くして夕飯を奮発してくれた。
ダイが食べすぎそうになったのはミナがちゃんと止めていた。ルクトの出番は無しである。
そんなこんなで薬草採取も終了し、夜半にトルベンは眠りについた。これから三人は交代で夜番をしつつ昼までには街に帰る予定である。
森の中、少しだけ平らな場所には、前に誰かが野営をしたかすかな焚き火の焦げ跡が地面に残っていた。水場が近すぎず遠すぎず、わずかに開けていて、見晴らしも悪くないここは野営の良いポイントだ。
焚き火を囲むように張られた天幕は、火が跳ねても届かない絶妙な距離感で配置されている。倒木を椅子がわりにするため焚き火をその近くに設けた。
野営の順番が回ってきたミナの腰掛けている倒木は、表面は日に晒されて白っぽくなり、木目がくっきりと浮かび上がっている。多少のざらつきはあるが、野営地で使うには十分な安定感があった。
火の明るさに目が慣れてしまわぬよう周辺を見回すが、気になるような物音はせず、パチパチと小さくはぜる音だけが森の静けさに響いていた。
初夏を迎えようとしてはいるが夜風はまだ少し冷える。頬を撫でる風を感じてミナは静かに息を吐いた。
高く昇った月がゆっくり傾きはじめる頃、天幕から出てきたルクトがミナに声をかけた。
「時間だよ。交代しよう」
「ありがとうルクト。トルベンさんがくれたお茶、まだポットにあるから」
「ありがとう。このまま朝まで僕が見張るよ」
ダイは中間の見張りを頼むには不安があったので、一番早い時間を担当してもらった。食べ過ぎ注意はもう少し早めにするべきだろう。今も天幕でグッスリで、緊急事態にすぐ反応できるか心配な所だ。
倒木に腰掛け、カップにお茶を注ぐルクトをミナがじっと見つめた。
「あのねルクト、聞いても良い?」
「もちろん。なんだい?」
ミナの握ったカップに力が入る。唇を迷うように開きかけて閉じた後、ようやくミナは口を開いた。
「魔法って……私にも使えるかな」
ルクトの魔法講義を聞いてからミナはずっと考えていた。体内に魔力があり、魔素の交換ができずとも魔法使いになれるのならば自分にも可能性があるのではないかと。
「……興味があるのかい?」
カップを口に運びながらルクトが尋ねる。茶化す様子も呆れる様子もないのがミナにはありがたかった。
「魔力があるかどうかさえ分かんないんだけど、もし……もしだよ?使えるなら弓だけじゃなくてもう少し後方支援の幅が広がるかなって」
それが無理でも水を出せるだけで荷物が減る。火が出せれば焚き火を起こすのに苦労がない。
ルクトはミナの話にじっと耳を傾けた。何かを探られているような心地がして少し落ち着かない。
「どう、かな?」
不安そうなミナにルクトが優しく笑いかけた。
「そうだね、魔力はあるよ」
「ほんと!?」
大きな声を出してしまいミナは慌てて口を両手で塞いだ。ルクトが天幕の方へと顔を向ける。
誰も起きる気配がないことを確認するとミナはルクトと顔を合わせシー、とお互い人差し指を立てた。ルクトは小さく笑うと手近な小枝を拾い、それを二つに折って焚き火にくべる。
「ただ、戦闘に使うのは勧めないな。魔法も弓も集中が大事だからね」
弓をつがえながら魔法を使う。そんな事は上級冒険者の中でも一握りにしか出来ない。しかもどちらも極めたような変わり者だけだ。
「だけど、隠し技として持っておくのは悪くないよ。弓が使えない状況で相手の不意をつける」
出せるのがただの水でも顔に当たれば相手は怯むだろう。森の中での火の魔法は取扱注意だが、ミナならば大丈夫だ。
「教えて欲しいの」
真剣なミナの瞳にルクトは一つ頷くと手を差し出した。
「まずは自分の魔力を自覚する所からね」
そう言ってルクトはミナの手を優しく取った。訓練の一環とはいえミナは一瞬だけ息を呑む。けれどすぐにその手の温かさに心を落ち着かせた。
「僕が君の魔力を少し引き出してみるよ。目を閉じて、集中して」
「……はいっ」
ギュッとミナが勢い良くその手を握る。ルクトの手は思ったよりもずっと大きかった。
翌日、無事に街まで戻ってきたミナの表情には、昨夜とは違う、少しの誇らしげな色が宿っていた。
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