掌編:華音視点―彼女の孤独を知る掌編
夜の邸宅は、星明りより静かだ。十二人掛けのテーブルに私一人。
動物は禁止。落ちる毛一本が“品位”を損なうから。
だから私は、ノートの片隅でだけ猫を飼う。窓辺で日向ぼっこをさせてやりながら、今日の教室を思い出す。
〈常に五位以内を〉──父の秘書から届く定型句。家の看板、という鎖。
ペン先で描いた猫は首をかしげ、訊いてくる。守りたいのはそこ?
いいえ、と小さく笑う。
隣の席の彼──神谷蒼司の横顔が、紙の上に滲んだ。無愛想で、不器用で、でも作り物じゃない声を持つ人。
猫はページの隅で伸びをする。明日は窓の外へ連れて行って とでも言うみたいに。
ノートを閉じ、ベッドへ潜る。
──少しずつでいい。
夜風がカーテンを揺らし、紙の猫が月明りに瞬いた。
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