少年は輝く明日の夢を見た 〜巻き込まれ転生した俺、今日も地獄で生き残る〜
獣乃ユル
プロローグ
第1話 噂
温かみのあるオレンジ色の光が部屋全体を照らしている。沢山の男たちが円形のテーブルを囲み、酒を飲み明かしていた。
彼らの側には鎧や剣、斧などが置かれている。ここは、「冒険者」と呼ばれる荒くれ者たち御用達の酒場だ。
夜に差し掛かっている時間帯ということもあり、今日の仕事を終えた彼らは、疲れた体を癒やすように酒を飲み交わし、くだらない話で笑い合っている。
「なぁ、ラーデカルト神聖国って知ってるか?」
そんな馬鹿騒ぎから少し離れた場所に、男女で机を囲むペアが居た。彼らも冒険者であり、仕事のついでに小腹を満たしに来たのだ。
「知ってるわよ。ていうか、こんな仕事してて知らないほうが珍しいでしょ?」
「それもそうか」
短髪にツリ目の、気の強そうな女性が返答する。
「まさか、行きたいなんて言うんじゃないでしょうね?自殺についていくのはまっぴらごめんなんだけど」
「違う違う。噂話としてっつうか、話の種としてな?」
男が一杯酒を飲み干し、肉にかじりつく。
女は彼の話はじめを待ちながらも、並べられた食事に少しづつ手をつけていた。
「って言っても、俺はあんま知らないんだ。故郷があそこから遠いもんでよ」
「だから、私に話せって?」
女が不機嫌そうに眉をひそめる。
それは男が嫌いであるとか、会話が苦手だからとかそういう理由ではなかった。単純に、彼女にとってソレは禁忌なのだ。
大量殺人事件の話を好んでする人間が居ないように、異なる宗教の戒律にはいちゃもんをつけないように。
元々触れるような話題でもないし、できれば話したくない。
「頼む〜!みんなにおんなじような反応されるんだよ〜!!」
「この話、全員にしてるわけ?」
「ギルドのやつには」
「……はぁ……」
女が頭を抱える。
ここで自分がタブーに触れるリスクと、仕事仲間が見知らぬ人たちのタブーに触って回るリスクを比べ、天秤に乗せてみた。そしてその後、もう一度大きくため息を吐く。
「いいわ、一回だけね」
「よっしゃー!!」
思いっきりガッツポーズする男を見ないふりしつつ。
「厳密に言うなら、あそこはラーデカルト神聖国跡地よ。元々は大きな国があったんだけど、唐突に滅んで、手つかずになったらしいわ」
あんまりな物言いをしているように聞こえるが、本当にそれは唐突であったという。神聖国からの連絡が途切れ、他国が確認する頃にはもう国王を含めた全ての国民は失踪していたらしい。
「そこからわかんねぇんだよな。そんな大きい国が滅んで、他の国は動かなかったのか?」
男が首をかしげる。
ラーデカルト神聖国の土地は今この大陸で一番大きい国と比べても見劣りしないほどだし、他の国が動かなかったとは考えづらい。
同盟国なら助けるだろうし、敵対国なら攻め入るだろう。
どちらにせよ、あそこまでの土地が手つかずで、放置されることはありえない。そんなふうに男は考えた。
「まぁ、あそこが普通だったらそうでしょうよ」
女はものを知らない赤子を見るような目つきで男を睨む。
「ここからが、今の神聖国の話。簡単に言えば、あそこは今地獄になってるわ」
「地獄?」
「そう。放たれた調査隊は一つも帰っておらず、歴代の勇者七人はあそこで消息を絶っている。噂によると、魔王もあそこには進行しないそうよ」
「……は?」
「ま、そうなるでしょうね」
ぽかん、と男が口を開く。
勇者と言えば、生きる伝説だ
一人居るだけでも力は一国の軍隊に匹敵し、最強首と恐れられるドラゴンすらも軽々と討伐できる人間兵器。
それが、七人入って誰も帰ってきていない?
魔王だってそうだ。
勇者は魔王を倒すために作られた制度で、五十人の勇者を持ってしても倒せていない本物の天災だ。それが、近づくことすらしないなんて。
「……何があるんだよ、そこには」
「わからないわ。帰ってきた人が居ないんだもの」
噂によれば「数万匹のドラゴンの住処」であるとか、「その場所に入っただけで呪われて即死する」なんて言われているが、そのどれもが信憑性にかける。
つまるところ、実態は不明ということだ。
「成程なぁ。そりゃみんな話したがらないわけだ」
その話の大きさに辟易しながらも、男が大きくうなづく。
国の象徴であり、宗教のシンボルでもある勇者──を、何人も喰らってきた魔の領域。宗教関係者はもちろん、一般人が語りたがるわけもない。
「それで、あんたは何で急に神聖国のことが気になったわけ?」
「噂を聞いたんだが、まぁ今の話を聞くとデマだろうな」
「噂?」
「あぁ、なんでも神聖国から生き延びて帰ってきたやつが居るらしいって」
「デマね、100%」
「だろうなぁ……。仮に、そんなやつが居たらすげぇ運が良いか、すげぇ強いんじゃないか?」
「……それで生き残れるなら、勇者たちは帰ってきてるわよ。あそこから生還できる生き物がいるとしたらそれは」
酒に口をつけ、冗談めかして女が笑う。
「神か、悪魔ね」
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