第3話


   申し遅れましたが、アタシは前述のとおり、15歳の高1で、名前は 剣持けんもち 聖子せいこ といいます。


 森の中…といっても、明るい陽光が輝いていて、初夏の朝みたい。

 新緑が溢れていて、目に彩、でした。

 

 アタシは、おろしたての剣道着のままで、新しい状況になじむことを強いられている、生まれたてのシカの赤ちゃんみたいなキモチでした。


 立って、歩いて、深呼吸。

 (どうしたものかな?…見たところ日本の森と植生?は同じみたい。時代はわからん。 落ち着け。落ち着け、聖子。 状況に適応しなくちゃ。…)


 ロビンソンクルーソーみたいなありきたりなト書きを考えていると、ひゅんっと、顔を何かがかすめました。

「痛っ!」

 こめかみのあたりに疼痛が走り、血がにじむのがわかった。


 すぐそばの樫の樹にドンっと矢が刺さった。

 (矢を射かけられたんだわ! 誰だろう?)


 「やあ! すまんすまん! 鹿かと思ったんや! 怪我はないか!」


 ガサガサッと、近くの茂みから、大男が現れました。 ボサボサの髪で、垢じみた黒い顔でしたが、いかにも精悍で、一目で「野武士」というやつだな、とわかる風体だった。


 「すまぬ。拙者は 宮本武蔵みやもとたけぞうと申す、しがない田舎侍じゃ。 狩りに来ていて、この辺ではまず人に会うことはないから、高を括っておった。 怪我をしておられるな。 ちょっと待ってつかあさい」


 タケゾウさんは、手に持っていた布巾を近くの清水で絞ってきて、アタシの傷口を拭い、焼酎で消毒して、薬をつけてくれました。

「あ、ありがとうございます。 親切にしてもらって…アタシは剣持聖子というものです。」

「う、うん」

タケゾウさんは、アタシを見てちょっと照れたように赤くなってにやにやした。


 「ここは、日本ですよね? 今は一体何年?」

 「ナヌ? 貴殿は記憶喪失かな? ここは、宮本村。もちろん日ノ本のくに。今は安土桃山の世である。 織田信長が本能寺で討たれて、日本中が大騒ぎになっておる」


 「じゃあ戦国時代! ひゃあ! タイムスリップしちゃったんだわ! 」

 アタシは、元気盛りのJKの習性丸出しにして?素っ頓狂な大声をあげてしまった!


<続く>


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