非常勤講師ティーチの魔法学概論〜知識と経験を神の手違いで授けられた教師が授業を行った結果、生徒たちも無双します〜

囲魔 美蕾

第1話 生き直し

 ブクブクブク………。

 そんな音が聞こえそうな感覚。ゆっくりと、水面に上がっていくような、不思議と心地よい感じだ。

 水面に近づくにつれ、意識がだんだんはっきりしてくる。手、無し。足、無し。体、無し。おやおや? どうなっているんだ? なぜ俺は存在できている?

 自問自答を繰り返していると、若い男の声がした。


「やあ、お目覚めかな?」


 誰だ? 視覚がぼんやりとしかはたらいておらず、相手を認識できない。相手が白の短髪であることと、やはり若い男であることくらいしか視覚情報を得られていない。


「私かい? 私はね、一応神だよ。君たちが崇め称える、ね」


 心を読めるのか? そして神だと? 私は神を崇め称えるほど熱心な信者ではないのだが……。


「ああ、心くらい読めるとも。神だからね。残念ながら崇めてはもらってないみたいだけど……。まあ、仕方ないかな。現代じゃ、神と人とは隔絶した存在になってしまっているからね」


 そうか。まあ本当に神だということを疑っていたわけでもない。俺は死んだという認識があったのだから、その後会える存在など神かその使いくらいのものであろう。


「そうだね。君は死んだ。それは間違いない。ちなみに記憶はばっちりあるかな?」


 ああ、不自然なくらいにはっきりとした記憶がある。

 

 俺は……くっ、名前だけがなぜか思い出せない。ともかく、俺は教育熱心な家庭に生を受け、幼少期から暇があれば勉強の日々を過ごしていた。子どもの頃は嫌だった思い出があるが、今となっては何事も勉強だとわかっているから、その一つの形だったのだと納得もできなくはない。だからといってもう一度やれと言われてもやる気はしないが。

 小中高とまあまあ学力の高いと世間で言われている学校に通い、やはり勉強を頑張った。だが、学校での勉強は面白かった覚えがある。わかりやすいように、飽きないように、先生たちは授業を考えに考えて作っていた。そりゃあ合わない授業だってあったが、それはそれで学びはあるもんだ。そうして、先生ってもんに興味を持った。

 教育学部のある大学に通い、学校の先生になるための勉強をした。俺は理科が好きだったから、理科の勉強に加え、教え方や教育の歴史、教育に関する法律、心理学など、たくさんのことを学んだ。一時期は伝五郎先生なる科学を面白く伝える先生の科学教室に通ったりもしたなあ。なんで他人の名前は思い出せるんだよ。

 そうして、俺は学校の先生になった。生徒に面白く理科の魅力を伝えるのが俺の仕事だと思っていた。知識云々の前に、興味関心を持ってほしかった。それさえあれば、自分で勉強できるんだから、と。そのためには他人の力を借りることなど恥とも思わず、授業について色んな人に相談したりもしたし、ネットにある実験・解説動画をよく生徒に見せたりもした。市ヶ岡勇気先生や、ラクレット先生なんかの動画にはとてもお世話になった。そんな授業をしているうちに、言っちゃ何だが物好きな生徒たちに慕われるようになった。時には今までの先生の中で一番面白いと言われることさえあった。そんな生徒たちに支えられ、俺は定年を迎えるまで飽きることなく、腐ることなくしっかりと教師を続けることができた。

 晩年は、まあ、大したことはなかった。30歳手前で結婚していた俺は、2人の子どもに恵まれており、孫もいた。定年後はごく普通に老い弱っていき、病気で召された。家族に看取ってもらえたのは幸せだったと思う。

 

 で、そんな俺は何があってこの神と相対しているんだ?


「記憶がはっきりしているようで何よりだよ。今君が僕に相対しているのはね、次の生に行く準備ができたからだよ」


 次の生? 俺は生まれ変わるのか?


「ああ、言葉足らずで悪いね。次の生と言っても、君は君のままだ。ただし、成人直後くらいの姿で生まれてもらうけどね」


 全くもって意味がわからない。俺のまま生まれ変わる? 成人直後の姿で生まれる? 何を言ってるんだ、この神は?


「いいね、神を前にしてその口ぶり。それでこそ生まれ直させるに値する。さて、事情は生まれてから把握してくれ。あまり時間が無くてね。だが、必要な情報は共有しておこう。まず、君が生まれるのは元いた世界とは異なる世界だ。そこで君には教育をしてもらう」


 異世界で教育?


「ああ、そうだ。君のお得意の教育だ。生徒を護り導く。それが君の使命だとも。それに必要な、例えば魔法やその地の地理歴史、法など最低限の知識は与えておくから安心しておくれ」


 魔法!? 魔法があるのか!?


「ふふふ、興味を持ってくれてなによりだ。そうとも。君がこれから生きる世界には魔法がある。そして、それが君の使命にもつながるんだが……。それは、行ってからのお楽しみってことで。とりあえず、君は"ジニアース魔法学園"という学校の教師になること。それを目指してくれ。後はさっきも言った通り、生徒を導いてくれればそれでいいさ。おっと、そろそろ時間のようだね」


 くっ、また意識がぼんやりとしてきやがった。異世界はわかった、使命もわかった、だがまだわからん、俺の名前は何なんだ?


「そうだね、君の前世の名前はまあ、置いておくとして、次の生では"マーリン・ティーチ"と名乗ると良い。魔法の教育者として良い名だろう?」


 アーサー王の師、マーリンに教えるのティーチね……。悪くない、か。

 もう限界だ。ね、むい……。


「行ってらっしゃい、マーリン・ティーチ。任せたよ。世界の行く末は君にかかっている。!? ……おっと、最低限の知識と間違えて、賢者の知識と英雄の経験を与えてしまったようだ。まあ、神が与えた体に神が与えた知識だから滅多なことにはならないだろうが……。いや、すまないね。せいぜい、私からのプレゼントだと思って使い倒してくれよ」

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