第2話:星の崩壊と星のかけら

星の崩壊と星のかけら/

 こんな終わりに近づいた星でも、夜がくる。静かな静かな夜。昼でももちろん静かだけれど、不思議と夜の闇の中は特に静かなような気がしてくる。

 音だけじゃない、存在の静けさ。

 昼の間に塞いだ空の穴は、なんとか形になってくれたようだ。

 空の向こうに見える、星々の光が僕の目に届く。あの星はまだ生きているのだろうか?

 こんな風に、かけらをつなぎ止めなくても生きていける星なのだろうか。とてもうらやましくもあり、いつかはその星もこうなるのだろうと思うと、無情感が襲ってくる。

 僕は、なんとなく夜の散歩に出た。

 海の方に向かう。ここは明日見回る予定のエリアだ。個人的にどこか気に入っている海で、砂浜の広さと波の音が心地よくて、たまにここを見たくなる。

 ほとんど滅びた星のシステムの中で、まだ残っているこの海のシステムである『波』。

 きっと昔の人類たちも、この景色を見てこの音を心地よいと感じていたのだろうなと想像した。

 空の星の光が映し出された海は、鏡のようでもあるし、すべてを抱え込むおもちゃ箱のようにも思えた。

 かつての生きものたちも、星の中枢も、かつては海に守られ存在していたんだ。

 波の音はきっとそんな星に対する子守歌だったのかもしれない。

 そんなことを思いながら、波打ち際を歩いていたら、波がよけていく場所が目に入った。そこは空の星の光も、夜の闇も届かず、すべてを拒絶するような空間になっている。

 ああ、ここにも穴が開いたか……。

 僕は頭を掻く。仕方なく羽を開き海の上まで飛んだ。

 見てみると案の定そこにはひび割れがあって、海に穴が開いている。波もそこをよけて通っていた。この星の理の外にあるからだ。

 さて、困った。海のかけらはどこだろう。

 いつ欠けたかもわからないが、波に流されたか、それともどこかに打ち上げられたか。

 探してはみるが、なかなかみつからない。

 諦めて明日にしようかとも思うが、一度この規模の穴が開いてしまうと、きっと明日にはもっと広がっているだろう。探さなくては。 僕はもう一度高く浮かび上がると、俯瞰するように海と砂浜を眺める。

 飛び回り、海のかけらがどこにあるのかを見落とさないように羽ばたいていった。

 だめだ、海の上にはなさそうだ。

 僕は探索範囲を広げることにした。

 海の中に沈んでいるのかもしれない。

 高く飛び上がり、勢いを付けて海に飛び込むと、静かに羽ばたいて、無駄な流れをつくらないように泳いでいく。もちろんそこに命の輝きはない。とうの昔に失われたからだ。

 それでも僕は、この海の景色にその昔住んでいたであろう、生きものたちの営みを想像してしまう。岩陰を利用して生きる小さな魚たち、海底の砂の中を利用して暮らす貝類や甲殻類、そしてそれらを狙う大型の魚たち。

 その複雑ですべての要素に関係があり、無駄なものなど何も無かったのだろう。この星はそんな関係性の元に成り立っていた世界だったんだ。今はその影も無いが。

 それでも僕はこの海の景色に、在りし日の面影を見てそれを美しいと思ってしまう。

 どこか胸が苦しくなるような、そんな気持ちをこの景色に見てしまうんだ。

 だれかにこの星の景色を、この想いを話せたらどんなにすてきなことだろうと思うが、そんなことが叶わないのは知っている。

 僕はこの星で、最後の知識体だし、この星の滅びはもう決まっている。


 僕は感傷を振り切って、かけらを探してあたりを泳ぎ回った。

 あった。岩の隙間にかけらが墜ちていた。

 水面のかけらだったからか、海の中にあるのに表面が波打ち、水同士がぶつかり合い打ち付ける音までが聞こえてくる。

 夜を映し、光を映し出している。

 たとえかけらであっても、海は海なんだ。

 そんな星のあり方が僕は大好きだった。

 僕はその海のかけらを拾って、羽を一つ強く羽ばたかせる。

 僕の身体は、海の抵抗をものともせずに海の上まで打ち上げられた。

 そこには海の穴が開いている。

 僕はそこに今拾ったばかりの海のかけらをはめ込んで、同じように接着剤で止める。

 すべてを拒絶していた穴はうまり、また波がしぶくいつもの海に戻っていった。

 

 僕は、海のかけらを見たことで怖くなってきて、夜だったにもかかわらず、この星を隅々まで飛び回りかけらがないか確認した。

 結果としては予想通りだった。

 この星はもうあちらこちらが、穴だらけになっていて、かけらを拾い集めることすら困難な状態になっていた。

 いよいよ、本当の滅びが近づいたんだ。

 諦めとともに、僕はその光景をただ眺めていた。

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