第12話 意外な出場者

「クソが! 遅かった。デコ助の情報網にやられた!」


「いいじゃん。クソが捕まったんだし、妥当じゃ無い罰で出て来たら。その時にヤればいいんだから」


「そうだな・・・。でも、お前は冷静だな。俺はあのクソ野郎に考えられるだけの苦痛を与えてやりたいと楽しみにしてたのにな。そのために、車も調達してたのに」


「雹兄は暴力を楽しもうと、し過ぎじゃない?」


「そんな事は・・・ないけど・・・。死ぬ前に反省させてやりたいんだよね。だって、加虐者は自分が加虐されることを考えられないから、そういう事をするんだから」


「苦しめて、生かすんでしょ?私はそんな罪を犯す奴らの命を断つためにやってるんだよ。一刻も早くこの世から消し去りたい」


「ユキの理想の世界は醜い心を持った犯罪者がいない。雪が積もった朝のような真っ白な世界なんだろうな・・・」


「雹兄の理想の世界はどんな色なの?」


「俺の・・」


 雹の携帯電話が鳴った。雪の問いに答えずに携帯に出た。


「マジか、分かった。嫌だけど予想は付いていたよ。行くよ」


 ため息と共に携帯を切って雹は言った。

「『瞬殺』の参加依頼が来た」


 雪は一瞬訝しむような表情をしてから、ふっと息を吐いた。その目は何かを期待するように爛々と光りを帯びていた。それに呼応するように雹の目も爛々と輝いた。


「『瞬殺』はクソだから、壊滅させた方がいいからな」

 

「雹兄、楽しそうだね。対戦相手は決まってるの?」


「いや、トーナメントか総当たりらしいけど、誰が来ようと関係ないけど、悪人がいいな。クソな奴とやりたい」


「ふ〜ん、話しを元に戻すけど、ボコして反省させるって、雹兄は優し過ぎるよ」

 雪の表情が冷たい。雪は重犯罪者に厳しい。もしかしたら、逆に優しいのかもしれないけど、すぐに殺そうとする。


「ユキはセコンドで頼むわ」


 相手が、例えば、性加害者や重犯罪者だったとしたら、文字通り瞬殺してしまう可能性がある。そんな妹にしてしまったのは、少なからず、俺のせいだ・・・。雪・・・、俺の一生を賭けてもお前の心を守るからな。と雹の呟く声が、寒空に吸収される。


「雹兄、何か言った?」


「何でもないよ。今日は空が暗いな。雨が降りそうだ」


 雨里雹『瞬殺』出場決定

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