第121話 まんぷく差し入れ大作戦!

俺のアドバイスに吹っ切れた表情を見せたレイナさんは、その日のうちに、早速グループのメンバー全員を集めて、正直な気持ちを打ち明けたらしい。


『佐藤さんの言う通りでした! 私が一人で抱え込んでただけで、みんな、スランプに陥ってた子のことを、すごく心配してくれてて……。「なんで今まで一人で悩んでたの!」って、逆に怒られちゃいました(笑)』


後日、レイナさんから届いたメッセージには、安堵と喜びが滲んでいた。


『みんなで話し合って、今はその子を焦らせないように、全員でフォローしながらレッスンを進めることになったんです! そしたら、不思議と、グループ全体の雰囲気がすごく良くなって! その子も、少しずつ笑顔を取り戻してくれて……。本当に、ありがとうございます、佐藤さん!』


そのメッセージを読んで、俺も心からほっとした。俺の拙い言葉が、少しでも彼女たちの力になれたのなら、こんなに嬉しいことはない。


そして、記念ライブの数日前。

俺は、ある決意を固めていた。


(よし、俺も、俺にできる方法で、レイナさんたちを応援しよう!)


俺は、レイナさんたちのグループ全員のために特製の「まんぷく差し入れ」を作ることにしたのだ。ライブ前の、心身ともに疲れが溜まっている時期。栄養満点で、食べたら元気が出て、そして何より、みんなの心が一つになるような、そんな料理を。


俺は、週末を丸一日使い、最高の差し入れ作りに没頭した。

まずは、メインディッシュ。「始祖鳥の出汁を使った、特製サムゲタン風スープ」。

始祖鳥の羽根から抽出した、生命力溢れる黄金の出汁をベースに、骨付きの鶏肉と、隠れ里で手に入れた「地霊根」、そして数種類の薬膳食材を、マーメイド・パンの圧力調理機能を使って、じっくりと煮込んでいく。鶏肉はホロホロと柔らかく、スープには全ての旨味と栄養が溶け込んでいる。食べれば、体の芯から温まり、疲労が吹き飛ぶはずだ。


次に、手軽に食べられる軽食として、「シルフィード・ウィートと天空キノコのミニキッシュ」。

風車村の小麦と、天空諸島のキノコを使った、香り高く、サクサクとした食感のキッシュだ。一口サイズで、レッスンの合間にもつまみやすいように工夫した。


そして、デザートには、女の子たちが絶対に喜ぶであろう、「クラウド・シープの雲の雫とスター・ハニーを使った、ふわとろフルーツ杏仁豆腐」。

雲の雫のクリーミーで軽い口当たりと、スター・ハニーの上品で優しい甘さ、そして色とりどりのフルーツが合わさった、見た目も可愛い究極の癒しスイーツだ。


これらの料理を炎華が作ってくれた、保温・保冷機能付きの特製コンテナに詰め込み、俺はレイナさんたちのレッスンスタジオへと向かった。

スタジオを訪れると、中からは音楽と、メンバーたちの真剣な掛け声が聞こえてくる。


俺は、マネージャーさんにこっそりと差し入れを渡し、邪魔にならないように帰ろうとした。


しかし……。


「あーっ! 佐藤さん!?」


休憩に入ったレイナさんが、俺の姿を見つけてパタパタと駆け寄ってきた。


「え!? なんでここに!? もしかして、これ……!」


レイナさんがコンテナの中を見て目を丸くする。


「わー! すごーい! 美味しそうー!」


彼女の声に他のメンバーたちも集まってきた。


「え、これ、玲奈がいつも話してる、あの『Sさん』が!?」


「うそー! 本物!? ヤバい!」


メンバーたちは、大興奮だ。俺は、突然注目の的になってしまい、タジタジになる。


「い、いえ、その、ライブ、頑張ってくださいっていう、ただの差し入れで……!」


「みんなー! Sさんが、私たちのために、すっごく美味しいご飯、作ってきてくれたよー!」


レイナさんが嬉しそうに叫ぶと、メンバー全員から「ありがとうございます!」と、元気な声が返ってきた。スランプだったという子も少し笑顔を見せてくれている。


「いただきまーす!」


メンバーたちは、俺の作った差し入れを夢中で頬張り始めた。


「んー! このスープ、あったまるー! 体に染みるー!」


「キッシュ、サクサクで美味しい!」


「杏仁豆腐、ふわとろ! 天国の味……!」


スタジオは一瞬にして幸せな笑顔と「美味しい!」という声で満たされた。その光景を見て、俺は心からの喜びと、少しの気恥ずかしさで胸がいっぱいになった。


「佐藤さん、本当に、本当にありがとうございます! これで、ライブ、絶対に成功させられます!」


レイナさんが満面の笑みで、俺の手をぎゅっと握ってきた。その温かい感触に、俺の心臓はまたしても大きく跳ね上がるのだった。

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