ストーカーと廻る邪神信仰

冴條バジル

第1話 幼女天使との邂逅


 今日も"あいつ"がついてくる。


「……」


 常にどこかから感じる視線。振り返ってもその正体は掴めないものの、確かにそこに存在する。

 これが始まったのはいつからか……もう忘れてしまった。

 しかしまぁ、高校にまでついてくるのは中々胆力のあるストーカーだなと思う。流石に中には入っては来ないだろうけど。



「よう柳夜! 昨日のあれ見たか?」

「昨日? 何かあったっけ」

閃焔騎士ボルケーノナイトセルメスフィアだよ! 昨日の夜は最高だった……まさかあんなことが起こるなんてさ。あ、でも柳夜は興味無いのか」


 俺、霧憂むゆう柳夜りゅうやはそこそこの人間関係を構築できていた。

 現在話しかけてきた紅崎あかさき颯馬そうまは陽キャながらアニメやゲームに詳しく、よくこうやって話したりする。


 教室に入ると、相変わらず少し騒がしい。何やら人だかりができていた。

 俺のクラスはいじめやスクールカースト、或いは男女の垣根などの悪い所があまりない……ように思う。もしかしたら俺が知らないだけかもしれないけど。


「あの時はほんと痛くて、骨折れたの!」

「いや……折れたは言い過ぎだと思うよ」

「折れたぁ〜」


 人だかりの中心は零羅れいら武真たける杉波すぎなみれん。

 二人とも遠くからでも判るくらいボロボロで、身体中に包帯が巻かれていた。


「うわ、何でそんな怪我してるんだ」

「ん、おはよ颯馬。昨日夜に散歩してたら爆発事故に巻き込まれたの」

「夜に散歩するのもどうかと思うぜ? 杉波はともかく零羅も止めとけよ」

「すみません……」


 確かに自由奔放な猫って感じの杉波と違って大人しく真面目な零羅も一緒なんて珍しいな。まあ本人達は無事そうだ。

 俺が席に座ると、前にいた人が話しかけてくる。


「霧憂君おはよう!」

「……!?」


 驚いた。前にいたのは夕宮ゆうみや冬淵ふゆち、いつも明るく元気な女子。しかしその身体は先程の二人と同じかそれ以上に包帯だらけだった。


「これ? 走ってたら階段を転げ落ちちゃって。気になる?」

「……」


「うえー、流石手強い」


 危ない。うっかり女子と話しそう・・・・・・・になってしまった。


「悪い奴じゃないけど、霧憂君の女嫌いはガチ。いくら夕宮さんでも無理でしょ」

「いーや私は諦めない!」


 隣の席の碧羽あおば来欐らいむによる解説は少しだけ間違いがある。確かに俺は絶対に女子と話さないよう心がけており、そのせいで女嫌いというイメージを持たれているが……。

 実際は全然違う。むしろ彼女欲しい。


 でも駄目なんだ。俺と会話したら"あいつ"に狙われる危険性がある。


 ──その瞬間、眩い光が辺りを包み込む。

 時間にして1秒にも満たないそれに反応する間もなく、見える景色が歪んで消えた。






 *◆*






『あなたのスキルは《絶対服従スレイブフェノメノン》です』


 起きたら森だった。


「……は?」


 周囲には誰もいない。ただ草木が広がるのみ。

 そしてさっき聞こえた……スキルがどうとかってのは夢なのか? それにしては意識がはっきりしている。頭に残ってるし、漢字も特殊な読み方も理解できている。

 どうも夢だとは思えないが……。


「《絶対服従スレイブフェノメノン》」


 何も起きない。まあ、普通に考えたら急にそんな能力が手に入る訳がない。

 ただ、目の前に起きている現実リアルを受け入れるにはスキルとやらも受け入れるしかないだろう。


 もしここが夢なら俺は能力を得ている筈。もし本当に森へ転移させられたのなら魔法的な何かや能力が絡んでいる筈。

 そう思えば先程の言葉は真実だ。


「やっぱ誰か対象がいないと発動しないのかな……服従ってくらいだから。でも何も起こらなかったら恥ずかしくなる」


 なんてことを考えていると、ガサガサと草を掻き分ける音と共に何かがこちらへ近づいてくる。

 現れたそいつは人間サイズの蜘蛛のような生物。


「え、なんだこいつ!?」


 少なくとも危険な奴であることは判る。襲われたら勝てない。逃げようとしても絶対に捕まる。

 俺は咄嗟にスキルを発動しようと叫んだ。


「《絶対服従スレイブフェノメノン》!」


 少しだけ黒いオーラが放出され蜘蛛に向かう。

 しかし外れた。更に蜘蛛は俺の反応より素早く距離を詰め、こちらに脚を伸ばし──。


 ──瞬く間に切り裂かれた。蜘蛛の脚が。

 目の前に現れた小さな子供が俺を守るように立ち塞がる。その顔や服装は後ろからだとローブでよく見えなかったものの、なんとなく女の子であるのは理解できた。


 続けてその女の子は蜘蛛に飛びかかり、その目にナイフを突き立てる。速い。俺も巨大蜘蛛も反応が追いついていない。

 最後の一閃により蜘蛛は崩れ落ち、完全に動きを停止した。死んでいる……のだろう。


 ともかくこの子は俺を助けてくれたという認識で大丈夫そうだ。


「大丈夫……でしたか?」

「ッッ《絶対服従スレイブフェノメノン》!!!」


 違う、振り返った瞬間見えたこいつの顔、こいつの目。

 俺はよく知っている、忘れる筈もない!

 蜘蛛の時よりも数十倍早く脳が危機を伝える。

 先程より黒いオーラが大量に放出され、太いレーザーの領域に達していた。こいつは一切避けずオーラを浴びた。

 勘で判る。俺のスキル、俺の能力はこいつにヒットしたと。


「動くな!」


 そして、動きを止めてから。


「うぐっ……!」


 全力でこいつの顔面を殴り飛ばした。


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