第2話 血戦、王宮へ



 朝霧が渦巻き、

 鐘の音は硝煙の中でかき消えた。

 アカディア市の中心——

 王宮を戴く山城の麓、

 黒曜石の大通りは、

 今や血と火の渦巻く戦場と化していた。

 ---

 蒼穹会の主力部隊は、イレイン・オースティンの指揮のもと、

 爆裂で開いた黒曜石通りの裂け目を突き進み、

 王宮の階段へ決死の突撃を開始した。

 彼らの衣服は裂け、甲冑は割れ、

 火器を掲げる者、

 祖先の遺した重斧や長剣を振るう者、

 それぞれが燃え盛る狂気をその身に宿していた。

 これは整然たる戦役ではない。

 命運を賭けた、魂の決戦だった。

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 王宮階段上——

 セレス王宮守衛軍が、列を整えて立ちはだかっていた。

 深藍に銀の紋様を刻んだ甲冑を纏う彼らは、

 王国に最後まで忠誠を誓った者たち。

 たとえ相手が同胞であろうとも、

 たとえ王都の腐敗を知っていようとも——

 職責に殉じ、盾を掲げ、槍を構え、王宮の門を死守する覚悟を固めていた。

 彼らは連邦の犬ではない。

 セレス王冠最後の守護者だった。

 ---

 短い角笛の音が、戦場を切り裂く。

 守衛軍は三重の防線を張り、

 盾壁、槍陣、火器部隊を順に配置し、

 冷たい光と銃火が、朝霧の中に絶望の線を描いた。

「セレス、不滅を誓う!!!」

 彼らは声を枯らし、

 しかし確固たる叫びを放った。

 ---

 イレインは剣を高く掲げ、吼えた。

「今日、城を破り、明日、新たに生まれ変わる!!!」

 その声は空気を裂き、

 蒼穹会戦士たちの胸奥に眠る最後の力を呼び覚ました。

 突撃は——

 もはや、誰にも止められない!

 ---

  ✦ 第一波突撃

 蒼穹会の前衛部隊は密集陣形を組み、

 王宮階段へ殺到した。

 鉄靴が砕けた石段を踏みしめ、

 怒号が霧を切り裂く。

 盾がぶつかり合い、

 槍が皮鎧を引き裂き、

 火銃が爆ぜ、

 鉄弾が胸板を貫く。

 階段は、瞬く間に血の肉挽き場と化した。

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 イレインは自ら剣を振るい、

 その刃は冷たい閃光を放ちながら一太刀ごとに血飛沫を散らした。

 彼は守衛の刺突を身をかわして躱し、

 反撃の一閃で、

 敵兵の首筋を深々と断ち切った。

 鮮血がマントに飛び散り、

 眩しいほどの紅に染まった。

 ---

 王宮守衛軍も必死に抗った。

 火器部隊は後方に下がりながら射撃を続け、

 石弓や短弩が空に密集した弧を描いた。

 蒼穹会は多大な犠牲を払いつつも、

 歯を食いしばり、

 一歩、また一歩と、

 王宮門に迫った。

 ---

  ✦ 大門前の死闘

 巨大な王宮正門は、固く閉ざされ、

 重厚な木鉄複合扉は完全に施錠されていた。

 門前には、王宮禁衛隊の最精鋭十数名が立ち塞がる。

 重装甲に身を包み、

 双手剣と長柄盾を手に、

 まるで生きた要塞のように。

 彼らは退かない。

 たとえ叛軍が目前に迫ろうとも。

 ---

 イレインは振り返り、短く命じた。

 「破門班、前へ!」

 爆裂槌と梃子棒を手にした四人の蒼穹会戦士が飛び出し、

 盾壁と銃弾の嵐の中を、

 強引に門へ肉薄していく!

 ---

 ドン!!!

 破砕槌が門の継ぎ目を叩きつけ、

 木片と金属片が四散する!

 禁衛たちは怒号とともに突撃し、

 巨剣を振り下ろして破門兵の一人を真っ二つにした。

 血飛沫が上がる——

 だがすぐさま次の兵士が進み出て、

 二発目の破砕薬包に火を付けた!

 ---

 イレインも親衛兵を率いて突入。

 盾で矢を弾き、

 立ち塞がる守衛兵を自らの剣で斬り伏せた!

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 ✦ 側面の変化

 そのとき——

 王宮南側の密道が突如開かれた。

 あらかじめ潜伏していた蒼穹会の奇襲部隊が、

 内部から攻撃を開始!

 王宮内の守衛軍は一部が内側防衛に向かい、

 大門の守備が一瞬緩んだ!

 イレインは躊躇わず、吼えた。

「全軍——突撃!!!」

 破門班が最後の爆破を敢行!

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 ドオオオオオオッ!!!

 王宮の正門が炎と衝撃波に吹き飛ばされ、

 濃煙が門の裂け目から吹き出した。

 蒼穹会の戦士たちは咆哮と共に

 断口へなだれ込み、王宮内部へとなだれ込んだ!

 ---

  ✦ 王宮内部の血戦

 回廊——

 主広間——

 玉座前庭——

 至る所で白兵戦が勃発した。

 石柱は折れ、

 赤絨毯は血に染まり、

 回廊の果てでは火銃が吼え、

 石段では短剣が深い裂傷を刻んだ。

 叛軍と守衛軍は互いに食らいつき、

 屍と血潮で、一寸一寸、

 領地を奪い合った。

 ---

✦ 玉座前、運命の終局

 大理石の高座——

 その前に、

 王宮守衛軍最後の小隊が方陣を組み、

 王冠の象徴を守ろうとしていた。

 イレインは静かに歩み寄った。

 そのマントはすでに血に染まり、

 長剣は血を滴らせながら石床を引きずった。

 目の前に立つのは、

 最後の忠誠——

 最後の抵抗。

 彼らは黙って剣を掲げた。

 イレインは剣の切っ先をゆっくりと玉座に向け、

 低く、冷徹な誓いを告げた。

「アカディアの鎖は、今日、断ち切られる!」

 ---

 血と炎の中、

 運命の決戦が、

 静かに幕を開けた——。

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