第2話 瓢虫 『星降る庭で』
春の昼下がり、公園の奥。
陽射しに透ける若葉の下で、ふたりの子どもが遊んでいた。
兄と、妹。
小さなころから、なんでも一緒だった幼馴染。
泥だらけの靴。
笑い声が、空に溶けていく。
そんなときだった。
妹が、ふとしゃがみこんだ。
「ねえ、見て!」
小さな指先の先に、赤く丸い、小さな虫がいた。
背中に黒い星をちりばめた、小さな旅人。
「……てんとうむしだ」
兄がそっとつぶやく。
「英語だとね、Ladybirdとか、Ladybugって言うんだよ」
妹が、ちょっと得意げに言った。
「Lady……鳥? バグ?」
兄は首をかしげた。
「うん。
昔の人がね、この小さな虫を、空を飛ぶ“幸せの使者”みたいに思ったんだって。
だから、お姫様(Lady)みたいに大事にしたんだよ」
妹の声は、春の光に溶けそうなほど、やわらかかった。
兄は、そっと手を伸ばし、てんとうむしを指先にのせた。
てんとうむしは、驚くでもなく、
しずかに、指先を伝って歩いていく。
「きっと、いいことあるよ」
妹が、うれしそうに笑った。
兄は、手のひらを空に向けてそっと広げた。
てんとうむしは、羽をひらき、ふわりと空へ飛びたった。
二人は並んで空を見上げた。
若葉のざわめきのむこう、
小さな星がひとつ、空へ吸い込まれていく。
──どんなに大きくなっても。
──きっと、ずっと。
この小さな絆は、消えずに続いていく。
──
瓢虫(Ladybird)。
空へ羽ばたき、星を運び、絆を結ぶもの。
わたしたちもまた、小さな星を胸に抱いて歩いていく。
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