第十七話 リオの実力
フィールドに漂う静寂は、氷のように張り詰めていた。
カイル・ヴァンダービルトが右目に装着した魔力計測ゴーグルが、微かな電子音を立てて起動する。
黄鉄鉱を思わせる金色のレンズがリオを包み込み、無数の数値が虹色のオーバーレイで浮かび上がる。
「ふん……魔力総量『ERROR』か」
カイルの唇が歪む。ゴーグルの視界にはリオの輪郭が赤く縁取られ、体内を流れる魔力が竜巻のように渦巻いているのが視覚化されている。
通常の魔術師なら青い静脈状に表示される魔力経路が、リオの場合は全身の毛細血管まで黄金色に輝き、計測器の限界値を軽々と超えていた。
「でもな」
カイルが腰に巻いたベルトのスイッチを叩く。魔力吸収ユニットが青く脈動し、科学金属のプレートが鱗のように立ち上がる。
「魔力が多すぎりゃ、制御不能で自滅するだけだぜ」
リオは微動だにしない。両手は自然に下ろし、瞼の裏に過去の戦場が走馬灯のように浮かぶ。
(あのときも……魔力の暴走で村を焼いた)
カイルの挑発が耳を掠めても、表情は石英のように硬く保たれている。
「おいおい、びびってんのか?」
カイルが意図的に左足を半歩前に出す。ゴーグルの予測システムがリオの重心移動を検知し、攻撃パターンを12種類の候補に絞り込む。
「早くかかって来いよ、難民さん」
リオの右小指が微かに痙攣する。0.2秒だけ魔力が右腕に集中し、また分散する。
カイルのゴーグルがその一瞬を捉え、警告表示が点滅する。
《魔力奔流検知:クラスSS》
ベルトの吸収口が無数の微小穴を開き、周囲の大気から魔力を貪り始めた。科学金属がリオの放つ不可視の圧力に軋みをあげる。
「……面白い装置だ」
初めてリオが口を開く。その声は渓谷の底から響く流水のように冷たい。
「でも、魔力を吸収する前に」
彼の足元の魔法陣が突然黒く変色する。
「そのゴーグルが耐えられるかな?」
カイルの喉が乾く。計測値が異常な速度で上昇し、オーバーレイ表示が雪のように乱れ始めた。
リオの背後で空間が歪み、見えない竜の尾のような影がゆらめく。吸収ベルトが過負荷で赤熱し、警告音が甲高く鳴り響く。
「くっ……!」
カイルが咄嗟に左手でゴーグルの緊急遮断スイッチを叩く。金色のレンズが真っ暗になり、汗が顎を伝う。
(魔力の『質』まで計測できてなかった……!)
リオは依然として動かない。しかしフィールド全体に広がる魔力の圧力が、床の魔法陣を次々と覚醒させていた。
無数の古代文字が浮かび上がり、結界が三重に展開される。観客席の生徒たちが一斉に身を引く。
「戦闘、続行可能か?」
審判の声が震える。カイルは歯を食いしばり、ベルトの強制冷却ボタンを押す。
「……問題ない」
しかしリオの魔力は、まだ本気の1割にも満たないことを、カイルだけが肌で感じ取っていた。
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