第25話

 秋晴れの空の下、王都全体が、かつてない規模のお祭り騒ぎに包まれていた。


 大通りでは、俺を模した(全然似てない)巨大な山車が練り歩くパレードが行われていた。

 高さは優に三階建ての家ほどもあり、その頂上には、首を持ち上げると帽子が取れるような「俺」の木像が乗っている。

 山車を引く人々は「神ハル様万歳!」と口々に叫びながら、大通りを進んでいた。


 広場には様々な屋台が立ち並び(もちろん焼き芋屋台も大盛況)、その香ばしい香りが秋風に乗って漂ってくる。

 特設ステージでは、俺の偉業(とされている勘違いエピソード)を称える奉納演舞やら劇やらが、ひっきりなしに上演されている。


 「ドラゴンを一睨みで屈服させた神ハル様の物語〜」という看板の前では、子供たちがキラキラした目で芝居に見入っていた。

 ただ、劇中の「俺」があまりにもマッチョで勇ましく描かれていて、正直、勘弁してほしい……。


 俺は人混みにうんざりしつつも、まあ、祭りの賑やかな雰囲気自体は、嫌いじゃなかった。

 日本の祭りも好きだったしな。


 ◇


 祭りの夜。

 花火が打ち上げられるというので、俺は迎賓館の喧騒を逃れ、王都を見下ろせる少し離れた丘の上に来ていた。

 

 星がまたたく夜空に次々と咲く、色とりどりの大輪の花火。

 日本のものより一回り大きく、色彩も鮮やかで、中には魔法の力で形を変えるものや、音楽を奏でながら舞い踊るものまであった。

 

 夜風が頬を撫でる。

 少し冷たいけど、心地良い。

 祭りの喧騒から離れて、久しぶりに落ち着いた気分になれた。


「……わあ……!」


 ふと横から声がして、振り向くと、いつの間にかリルナが探しに来ていた。

 彼女は俺の存在に気づくと、少し恥ずかしそうに微笑んだ。


「ごめんなさい、驚かせるつもりはなかったのですが……」

「いや、いいよ。一緒に見る?」


 俺がそう言うと、リルナは照れた様子で頷き、俺の隣にちょこんと座った。

 二人きりで花火を眺める。

 夜空を彩る光と音。

 祭りの喧騒は遠くに聞こえる。

 なんだか、ちょっといい雰囲気かもしれない。


 日本にいた頃、俺は女の子と二人で花火を見たことなんて一度もなかった。


「綺麗……ですわね」


 リルナの横顔が、花火の光に照らされて浮かび上がる。

 普段は凛とした彼女の表情が、今はとても柔らかく、幼さすら感じさせる。

 彼女も、歳は俺と変わらないのだ。


「ハル様……」


 リルナは、意を決したように、俺の方へ向き直った。

 彼女の顔は、花火の光に照らされて、ほんのりと赤い。


「あの、私……」


 彼女は勇気を振り絞り、何かを伝えようとしている。

 小さな手が、自分のスカートの裾を無意識に握りしめている。

 その真剣な眼差しに、俺も少しドキッとする。


 これは、もしかして、アレか?

 いわゆる告白的なやつか……?


「ハル様……私は、あなた様と出会ってから、毎日が違って見えるようになりました。その……あなた様が神様かどうかなんて、もう私にはどうでもいいのです。ただ……私は……」


 リルナの声は震えていた。

 彼女の碧い瞳には、決意と不安が混じり合っている。

 その率直な感情の表現に、俺の心臓がバクバクと音を立て始めた。


 しかし、その時だった。


 ドーン!と一際大きな花火が打ち上げられた。

 その光が一瞬、俺たちの周囲を真昼のように照らし出す。


「……あ」


 リルナは告白のタイミングを完全に逃し、顔を真っ赤にして俯いてしまった。

 彼女の肩が小さく震えている。

 恥ずかしさのあまり、声も出せないようだ。


 気まずさのあまり、どうしていいか分からず、とりあえず焼き芋を差し出してみる。


「あの……食べる?」


 リルナは俯いたまま小さく首を振ったが、ふと顔を上げると、涙目ながらも柔らかく微笑んだ。


「いいえ……お気になさらず。これも……運命なのかもしれませんね」


 彼女のその健気な姿に、俺の胸が痛むような感覚がした。

 でも、どこか安堵もしていた自分がいる。

 まだ……心の準備ができていないのかもな、俺。


 その夜、二人は言葉少なに花火を見続けた。

 会話はほとんどなかったが、なぜか心地よい沈黙だった。

 帰り道、リルナがそっと俺の袖を掴んだとき、俺はそれをそのままにしておいた。

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