勘違いチートで異世界無双~全然動いてないのにボスが死んだ!? ~

暁ノ鳥

第1話

「……は? ここ、どこだよ……?」


 俺は水凪 陽(ミナギ ハル)。

 自分の名前はわかるようだ。

 目が覚めると、目の前に広がっていたのは果てしない緑の草原だった。

 頬を撫でる風は日本で感じるものとは明らかに違う。

 湿り気を含んだ優しい風が、何かわからない花の香りを運んでくる。

 空は信じられないほど青く、白い綿菓子のような雲がゆっくりと流れている。

 見上げると、遠くに連なる山々は紫がかった青色で、まるでファンタジー映画のセットのようだ。


「マジでどこだよ、ここ……」

 

 身体を起こしてみると、着ている服もいつもの白Tシャツとサウナパンツではなく、茶色がかった麻のような素材のシャツに、しっかりした作りのズボン。

 足元には本革らしき頑丈なブーツを履いている。

 まるで中世ヨーロッパの農民か、旅人のような出で立ちだ。


 ポケットを探ってみるが、スマホも財布もない。

 代わりに見つかったのは、小さな布袋に入った謎の銅貨が数枚と、腰に下げられた水筒だけだった。

 頭の中は「?」でいっぱいで、状況が全く飲み込めない。


「これって……まさか、最近流行りの……異世界転生?」


 テレビでよく見るファンタジー作品のCMを思い出す。

 まさか自分がそんな展開になるなんて。

 いや、冷静に考えろ。

 そんな都合のいい話があるわけ……。


 ◇◇◇

 

 ——白い、何もない空間。

 俺の目の前には、眩しすぎる光に包まれた、人型の存在がいた。


「やあ! 君、水凪 陽くんね?」


 その声は軽く、どこか投げやりな調子だった。


「手違いで死んじゃったみたい。ごめんごめん!」


 声の主は自分を「神」と名乗り、何の説明もなく続けた。


「お詫びと言っちゃなんだけどさ、異世界に送っといてあげるよ!  最近流行ってるでしょ?  サービスで職業もつけとくからさ!」


 俺が混乱して何か言おうとする間もなく、神(仮)は、宙に浮かぶ半透明のホログラムのようなパネルを指でスクロールしながら言った。


「えーっと、君のスキル適性は……ふむふむ。これは……へぇ、珍しいな。まあいいか、じゃあ、これ! 『見習い案内人』! ちょっと地味だけど、まあ頑張って!  いってらっしゃーい!」


 ◇◇◇


「そうだった……俺、死んだんだ……」


 電車事故だったような気がする。

 朝のラッシュ時、いつものように混雑した駅のホームで、前の人が突然倒れて……それを支えようとして、バランスを崩して……。


 天を仰ぐと、青空が目に染みた。

 死んだはずなのに、肌には陽の暖かさを感じる。

 鼻をくすぐる草の香り。

 どこか遠くで鳴く鳥の声。


「案内人って……それ、戦闘能力ゼロじゃん……」


 俺は乾いた笑いを漏らした。

 現代日本でさえ、どんなに努力しても報われなかった。

 大学の学費を貯めるためにバイトを掛け持ちし、夜は独学で資格の勉強をしていたのに、何一つ成果は出なかった。

 入社の面接には落ち続け、親は「もういい加減に」と言い始めていた。


「異世界に来てまで、最弱職スタートとか……」


 自嘲気味に呟いた瞬間、突然、脳内に半透明のウィンドウのようなものが浮かんだ。


【名前】ハル=ミナギ

【職業】見習い案内人 Lv.1

【スキル適正】

 ・歩行(F)

 ・地図読解(E)

 ・観測干渉(S+)

 ・生活魔法(G)


「…………観測干渉(S+)?」


 一瞬だけ、そんな文字が見えたような気がした。

 だが、瞬きする間に消えてしまった。

 おそらく気のせいだ。

 S+なんて、そんな都合のいいスキルが、案内人にあるわけない。


「はぁ……」


 絶望の溜め息をついても、腹は減る。

 今はまだ空腹ではないが、いずれそうなるだろう。

 まずは人里を探さなければ。

 この草原で野宿するなんて、サバイバル能力皆無の俺には絶対無理だ。


「どっちに行けばいいんだろう……案内人なのに道がわからないとか、シャレにならん……」


 深呼吸して、俺は重い足取りで、どちらへ向かう当てもなく、とりあえず歩き出すことにした。

 左手に持った草の葉で即席の日よけを作りながら、眼前に広がる雄大な自然の中を進む。


「この世界の名前すら教えてくれなかったなんて、ひどい神様だな……」


 そんな文句を呟きながら、最初の一歩を踏み出した瞬間だった。


 ズンッ――。


「ん?」


 足元から微かな、しかし確かな振動が伝わってきた。

 まるで巨大な何かが遠くで動いたような……。


 気のせいかと思って耳を澄ますと、遠くの方から、ゴゴゴゴ……という地鳴りのような音が聞こえる。


「地震か……? この世界も物騒だな……」


 まあ、俺には関係ないか。

 早く人を見つけないと。

 俺は特に気にすることなく、方角も分からないまま、なんとなく日当たりの良さそうな方へと歩き続けた。

 自分の踏み出した一歩が、遠くの地盤に影響を与えたなんて、もちろん、思いもよらなかった。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る