第2話 冒険者になりたくて!
「これは鉄仮面殿。お疲れ様です」
「うむ」
「今日は幾分が早いお帰りですね」
「まあ、野暮用でな」
ディーナさんと門番のやり取りを横で聞く俺。
鉄仮面ってそのまんますぎて笑うわ。
それより早く俺の紹介してくれないかな。
ただぼーっと突っ立ってるのも恥ずかしい。
人通りも多いしディーナさんが全身甲冑姿だからかなり目立つんだ。
と思っていると門番と目が合った。
「そちらの男性は?」
「これが野暮用だ」
「なるほど……?」
分かってないなるほど頂きました。
絶対分かってないじゃん。
「コイツは大草原で拾った身元不明の男だ」
「身元不明……幻惑の大草原は何が起きるか分からないと言いますし、もしや何処か別の場所から転移したとかでしょうか」
門番なかなか勘が鋭いな。
その通りだよ。
でも俺は口を開かない。
全てディーナさんに任せるつもりだから。
「まあ概ねそんな感じだ。だから身分を証明できる物が何も無い」
「なるほど、畏まりました。上官に話を通しておきますので今日の所はこちらをお持ちになって下さい」
そう言って門番は俺に木の板が取り付けられた簡易的なネックレスを手渡してきた。
多分これ臨時通行証的なやつかな。
「こちらは臨時通行証です。この一枚で一週間は街に滞在が可能となっております。ただし、それ以降滞在する場合は別途料金が発生しますので、それまでには必ずギルド経由で身分証明書を用意いたします」
ほら、やっぱり合ってた。
それにしてもこれは至れり尽くせりじゃないか。
やっぱ俺の見る目は最高だぜ。
ディーナさんと出会えた運の良さも素晴らしい。
「すまないな、世話になる」
「いえいえ、こちらこそいつもこの街を守って頂いている鉄仮面殿には感謝してもしきれません」
「そうか、では行くぞマル」
「へいへい」
俺はもう金魚のフンのようにディーナさんの後をついていく。
この際ペットと思われてもいいよ。
俺は一人になったらすぐに死ぬかもしれないんだから。
門をくぐるとそこは異世界だった。
まさにアニメや映画で見たかのような風景に俺はつい呆けて足を止めてしまう。
「どうしたマル」
「いや、これは、すげーなと思いまして」
「なんだその語彙力の低さは。力もなければ知能もないのか?」
シレッとギスってくるの辞めてほしいな。
あまりにナチュラルに俺を馬鹿にしてくるのはもう慣れたけど。
それにしても凄い光景だ。
中世の世界観というのか馬車や騎士らしき洋装の人達が行き交っていた。
かなり賑わっているようでそこかしこで屋台の呼び込みが聞こえてくる。
「おっ!兄ちゃん!串焼きどうだ!」
「う、美味そうな匂い……」
匂いに釣られてふらふらと屋台の前まで行ってしまう。
よく考えたらこの世界に来てから今まで何にも口にしていないぞ。
「一本二銅貨だ!」
「あっ……」
お金持ってないじゃないか。
くそぅ、目の前に人参を吊り下げられる馬の気持ちが理解できちまった。
「どうした?兄ちゃん金ねぇのか?」
「はは、まあそうとも言いますね」
「そうとしか言えねぇだろ。しゃあねぇ!ほれ、食ってけ」
そう言いながら屋台のおじさんは串焼きを一本手渡してくれた。
「いいんですか?」
「そりゃあそんなに物欲しそうな顔されちゃあな。それに兄ちゃん、滅茶苦茶弱そうな見た目してんじゃねぇか。あれだろ、駆け出し冒険者ってやつだろ?」
駆け出してもいないし、なんなら冒険者ですらないが。
てかシンプルに弱そうって言われたな今。
「じゃあお言葉に甘えて……」
兎にも角にも腹が減っては戦はできぬ。
串焼きに齧り付くと香ばしい匂いが口いっぱいに広がり肉汁が口腔内を満たす。
美味い、美味すぎる。
異世界の飯ってのはこんなにも美味いのか?
こりゃあ白飯が欲しくなるってもんだ。
「どうだ?うめぇだろ!」
「これ……滅茶苦茶美味いですね!!」
俺は正直な感想を述べる。
美味い以外にいい言葉が見つからなかったがおじさんはその言葉に満足してくれたようでニコニコした表情を見せてくれた。
「じゃあ次は頑張って稼いでこい!一杯稼いだらたらふく食えばいい!」
「そうします!ありがとうございました!」
はぁ、いきなりこの世界で優しさに触れたな。
いやまあディーナさんが優しくないと言うわけではないけども。
「む、どこに行ったかと思えば買い食いしていたのか」
丁度屋台を離れようとした時に俺がそばに居ない事に気付いたディーナさんがやってきた。
「おお!鉄仮面殿じゃないか!どうだい、その仮面取って見せてくれたら串焼きただでくれてやるぞ!」
「いや、遠慮しよう。食べたくなったら金を払えば良いだけだしな」
「まあそりゃそうだが。鉄仮面の下が見てぇんだけどな……」
おじさんは小さく呟く。
俺も同じ気持ちだ。
声はとても美しいから顔もさぞかし綺麗なのだろうが、頑なに顔を見せてはくれないのだ。
「いいからサッサと行くぞ。お前は今身分の証明できる物がないのだからな。私とはぐれた瞬間終わるぞ」
「脅しすぎぃ」
「本気だ。この街は王国の中でも上位にくるほどに大きい」
「例えるなら?」
「例えてもどうせ分からんのだろう?」
それはそう。
道中しょうもない会話を交わしながらやっと目的の場所へと到着した。
「ここが冒険者ギルドだ。まずは受付に行く」
「ほほー、ここから俺の冒険が始まるってわけか!」
こりゃあワクワクするのも仕方ないよな。
だって冒険者ギルドなんだから。
男だったら誰だってワクワクするだろ。
扉を開くといくつものテーブルと椅子が目に入った。
服装もやはりというべきか防具に身を包み武具を装着、もしくは壁に立てかけてある。
これぞまさしく冒険者ギルドと言うに相応しい場所だ。
「なんだ、何か気になるのか?」
俺があまりにキョロキョロしていたせいでディーナさんが不審な目で見てくる。
こればかりは仕方ないんだ。
男なら武器に目が行くってもんだろ。
「む、冒険者を見ていたのか」
「そうですね、俺の国では見たことも無い服装だったので」
当たり障りのない言葉を返すとつまらんとディーナさんはまた前を向いて歩き出す。
俺も続いて歩き出すと、あるテーブル席から声が掛けられた。
「おお!鉄仮面が来たぞ!」
「え!嘘!」
「うわー!すげぇ装備!かっけぇー!」
全て称賛する言葉ばかりだった。
ディーナさんは結構人気もあるらしい。
ただどうしてもディーナさんが目立つという事は俺にも視線が向けられるという事。
当然ながら俺は手ぶらでラフな格好だ。
誰だアイツ、という言葉が聞こえてきそうな表情を浮かべている冒険者が何人もいた。
その中の一人が椅子から立ち上がりこっちへと歩いてくる。
遂に来たか?
おいおい、新人がこんなところに何の用だ、ってやつか!?
「お前、誰だ?」
「夜葉杉丸です」
「冗談が上手いな。弱すぎますって。そうじゃなくて名前だよ」
だから名前だよ。
もっかい言ってやろうか?ええ?
「夜葉杉!丸!って名前だって!」
「お、おお。言いにくいな……マルって呼んでもいいか?」
声を掛けてきた冒険者はガタイが大きく、斧を背負っている。
前衛タイプの戦士ってやつかな。
どう見ても魔法使いではないのは確かだ。
「で、なんの用ですかね?」
「お前はこのギルドで見たことがない。それに鉄仮面が誰かと一緒にいるなんて珍しいぞ」
「俺は一般人ですよ。これから冒険者登録するんです」
「なにぃ?」
おお、おっさんの目が釣り上がったぞ。
来るか?そろそろ来るか?あの台詞が。
「お前……」
来た!これはワクワクが止まらねぇなぁ!
「お前この辺境の街パスィーユの冒険者ギルドで登録する新人かよ!よく来たな!歓迎するぜ!」
お、思ってたのと違うぞ……。
なぜか急にニカッと笑って肩をバンバン叩かれた。
「このパスィーユで登録するやつがいるとはな!もしかして鉄仮面が王都から連れてきた逸材か!?」
「いやいやいや!持ち上げすぎですよ!」
「なんだ、違うのか?」
「違いますよ。俺は――」
言いかけた言葉に被せるようにディーナさんが口を開く。
「コイツは幻惑の大草原で拾った雑魚だ」
言葉キツぅ……。
その通りだけども、もう少し言葉選んでくれないかな。
「雑魚?まあ確かに弱っちそうだが……アンタが連れてきた逸材じゃないのか?」
「断じて違う。私はスライムすら倒せない雑魚を逸材などと嘯いたりはしない」
「スライムすら倒せない?ガハハハハッ!マル、お前流石にそれは弱すぎるじゃねぇか!」
クソッ!この世界でもやっぱりスライムは雑魚モンスター扱いじゃないか!
俺だって武器の一つくらい持ってたらあれくらいは倒せてたはずだ。
「弱すぎます……そうか、あれはお前の持ちギャグだったのか。すまねぇな気付かなくて」
おっさんは申し訳なさそうに顔の前で両手を合わせて謝罪してきた。
持ちギャグでもないしそんな謝られても反応に困るだろ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます