第4話オーディションに落ちた少女②
「あ、あのっ……え、ええとっ…」
「どうかした?」
「さ、先に…その…あ、汗を流しても…いいかな…?」
「えっ…?」
「あっ!?も、もしかして…あ、汗嗅いてた方が、その…すっ、しゅきだったりしゅる?」
ええと…彼女の言う事は一体全体どういう事だろうか…?そう疑問に思いながら彼女に視線を向けると彼女の顔や首筋は真っ赤に染め上がって、体はプルプル震えてるように見える…。
あっ…!そうか!大声で歌を歌っていたんだし、そりゃあ汗を掻くわな。女性はそういう事を特に気にすると聞いた事があるな。これは気が利かない俺が悪いな。
「気が遣なくてごめんね?お風呂場まで案内するから好きに使っていいからね?使い終わったらここに戻って来てくれたらいいから」
俺は招き入れてた部屋から彼女を連れお風呂場へと向かった。彼女をお風呂場へと案内した後は当然先程まで居た部屋へと一人引き返して戻り彼女を待つ事に──。
今どこにいるのかって?それは俺の家に決まってるだろ?あの後すぐに戸惑う彼女を連れて俺の家へと向かったというわけだ。
さてと…。頭の中には彼女の為のメロディがすでに流れて奏でられている。彼女を待つ間にまずは一気にコレを楽譜に書いてしまうか!
「そういえば…彼女の名前…聞いてなかったな」
家まで連れて来ておいてなんだが、彼女の名前を聞いていない事に今更ながらに気がついた。
「…あれ…?」
ちゃんと説明したよな?俺の作った歌を君に歌って欲しいって…。だから家に来て欲しいって……。
「説明してなかったら男の家にホイホイ来るわけないよな?いかんいかん、今はそんな事より楽譜♪楽譜っ♪」
♢♢♢
『~~~♪♪♪~~~♫♫~~♪♪♬』
──頭の中で繰り返し繰り返し彼女の綺麗な歌声を思い返す。脳が震えたあの歌声を。そんな彼女の歌声にカチリと音を重ねて合わせていく。歌詞には想いをのせる。
それを楽譜へと刻み込んでいくのが俺の新しい作曲スタイル。
「…できた…。彼女だけの曲…」
それは今までの作曲人生で一番早く作曲できた曲。早くできたからといって決して手を抜いた訳ではない。これが最適だとばかりに音が鳴り響きながら次々と湧き出てきた結果だ。
「そういえば…彼女はまだお風呂から戻ってこないな…。まあ、母さんも深雪もお風呂は長いしな」
さ、流石にお風呂が長いからといって様子を見に行くのはナンセンスだよな?お風呂で何らかが起こり倒れてる事なんてないよな…?
はははっ…そんな事あるわけない…よな?
トントントン!
「ふぁいっ!?」
うおっ!?ビックリしたぁ~~~。思わず変な声が出てしまったわ…。控えめなノック音だったんだけどな。
「あ、あのっ…!おおおおおっ、お風呂上がりましたっ!!へ、部屋に入っても宜しいでしょうかっ!?」
やけに甲高い彼女の声…。
「断りを入れなくても勝手に入って来ていいよ」
「は、はいっ!しっ、失礼しまちゅっ!!」
──ドアが開いて入って来たのはバスタオルを巻いた彼女……。
「……はぁぁぁっあ!?」
何故だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?どうして彼女はその身にバスタオルしか身につけていないんだっ!?
「あ、あのっ……わ、私っ…一応こういう知識はあるのですが…は、初めてなので優しくお願いしましゅっ」
俺も知識はあるけど初めてなんだがっ!?
いやいやっ、そうじゃない!!
「な、なにを…?」
き、極めて冷静に言葉を紡ぐ…。紡げたよな?その前にもっと他の言葉を言えたのではっ!?そんな葛藤が巡る。
「な、ナニって…ナニ…す、するんですよね…?」
「…へっ?」
「…へっって何を驚いているんですか…?い、言いましたよね?『君が欲しい…』って…。だ、だから私っ…ありったけの勇気を出して…男性にそんな事初めて言われたから…だ、だから私の処女をあなたに捧げるつもりで…っ」
「あ、あのさぁ…お、俺は『俺の作った歌を君に歌って欲しいって。だから家に来て欲しいって』って言わなかった…かな?」
「──言ってません!君が欲しいとだけしか言われてません!」
「「………」」
訪れるのは静寂…
そして…
「ただいま~!豊にぃ~どこ~?豊にぃの深雪が帰って来たよ~♡」
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