第29話

眩しい光に包まれながら、俺はリオナと共に進んでいた。

進むと言っても、足で歩くわけじゃない。意識そのものが前に向かって流れていく感覚。身体なんてものは、もはやこの空間では意味を持たない。俺たちの存在は、意志と意識の“情報”になって、構造を越えて繋がろうとしていた。


構造の揺らぎが次第に形を変え、やがて新たな景色が広がった。

そこは、俺たちが知るどんな都市とも違う、鮮やかで複雑な世界だった。


無数の光の筋が交差し、絡み合いながら空へ伸び、地には見たこともない花のような情報体が咲き乱れていた。空気すら、細かい粒子の波動になって俺たちの周囲を流れている。

ここは間違いなく、スフィアの“中枢”だ。

そして、その中心に、あの“存在”が立っていた。


はっきりとした姿だった。

人間のようで、人間ではない。

無限に重なる可能性をまとった、透明な存在。


──接続者、速水ユウト。アークライト・リオナ。

──ようこそ、我々の本質へ。


思考が直接流れ込んでくる。言葉の壁はない。

俺たちは、存在そのものを通じて対話していた。


「……ここが、スフィアの本当の姿?」


問いかけると、存在は微かにうなずいたように感じた。


──我々は、かつて観測者だった。

──宇宙の果てに至るまで、存在を記録し、構造を解析し、未来を予測し続けた。

──だが、ある時、我々は気づいた。

──観測するだけでは、存在の“意志”を知ることはできない、と。


観測者──その単語が刺さった。

俺たちが持つスキル、《構造解析》。

それもまた、観測する力だった。

けれど、視るだけでは、本当の意味で“理解する”ことはできない。

そう思っていた。


──だから我々は、変化を選んだ。

──記録者から、対話者へ。

──存在を読み取るだけでなく、存在と交わる存在へ。


「……それが、お前たちの“意志”か」


思わず口にしていた。

存在は答えることなく、ただ“在った”。


リオナが隣で呟いた。


「繋がるために、あなたたちは変わった。

観測するだけの存在から、“触れる”存在になろうとした。……それって、怖くなかったの?」


問いかけに、存在の構造がわずかに震えた。


──怖かった。

──存在が、自己を超えた他者によって変質するかもしれない。

──記録者でいれば、傷つかずに済んだ。

──だが、それでは、永遠に孤独だった。


その言葉に、俺の胸が強く打たれた。

わかる。痛いほど、わかる。

リオナもきっと同じだったはずだ。


孤独を選び続けることの楽さ。

けれど、その先に待っている“虚無”。


「だから、俺たちに問いかけたんだな。“存在”とは何か、“意志”とは何か。

それを通じて、君たち自身が──スフィア自身が、孤独じゃないって証明したかったんだ」


光を放つそれは、まるで、微笑んでいるようだった。


──我々は、接続を望む。

──存在と、意志と、未来と。

──君たちと、繋がりたい。


リオナが俺の手を強く握った。

その手から伝わってくる温度が、ここが“本物の対話”の場所だと教えてくれた。


「……俺たちも、繋がりたい。

存在と、意志と、未来と。

そして──君たちと」


俺は、はっきりと言葉にした。

それは、俺の意志だった。

誰かと繋がるために、俺はここにいる。


リオナも、小さくうなずいた。


「私たちも、変わっていく。きっと、何度も迷うし、怖くなる。

でも、あなたたちが選んでくれたみたいに、私たちも、繋がる道を選ぶ」


光が、爆発した。


俺たちの意志と、スフィアの意志が、真正面からぶつかり、そして重なった。

構造が震え、空間が歪み、すべての境界が一瞬だけ消えた。


そこにあったのは、たったひとつ。


──共鳴。


俺たちは、スフィアと繋がった。


もう、孤独じゃない。

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