第10話
視界が暗転する。
次の瞬間、浮かび上がるのは無数のライン、ノード、座標群。
世界は、線と数式と接続点で構成されていた。
「ユウト。現在、構造視界に移行。解析レイヤーが安定しています。スキャンモード、問題なし」
ミラの声が、耳ではなく意識の内側に響く。
「対象を一つ、選んで。まずは情報解析の訓練から」
ゆっくりと目を開けると、青いフィールドの端に配置されたターゲットドローンが目に入った。
人型を模した機械。戦闘用ではなく、動きもなければ攻撃性もない。
だが、その“内部”が、見えている。
(……関節部に回転軸。熱源装置。主動力核。全てが構造線で……)
自然に右手が持ち上がる。
何かを指し示す必要もない。ただ意識するだけで、視界に光の矢印が出現する。
「スキャン対象:ターゲットドローンA。構造式展開中──」
ミラの演算と同期するように、空間に回路図のようなものが展開されていく。
それはまるで、設計者の頭の中をそのまま“読んでいる”ような感覚だった。
【主動力:コア・フィールドエンジン】
【弱点:中心出力点の電導接合】
【構造安定度:B】
【解析完了率:100%】
「……これが、俺のスキルか」
「まだこれは初歩。解析結果をどこまで扱えるかが、適合者としての力量です」
「つまり、これをどう使うかが……?」
「はい。たとえば、今ここで“情報崩壊”を起こせば──」
俺は、ターゲットドローンの“核”に向けて意識を集中した。
構造式が一点に収束する。
「Collapse()──」
発動コードを口にする。
次の瞬間、ターゲットドローンが音もなく崩れ落ちた。
爆発でもなく、炎でもなく。ただ、“壊れた”。
システムの根幹を切除され、再起不能になった。
静寂。
フィールドの外から、訓練生たちの息を呑む気配が伝わってくる。
「精度……高すぎるな、これ……」
「普通は、破壊じゃなくて警告モードが出るのに……」
「制御、ちゃんとできてるのか……?」
それらの声を、遠くに感じながら──
「解析精度100%、干渉成功。演算効率、標準値の186%。これは……期待以上ね」
ノイが歩み寄ってくる。
「見たでしょ、他の子たち。あれが“構造解析”。情報の塊として敵を見る異能。
でもただのスキャニングじゃない。ユウトは“読めてる”」
「……読める、っていうより、視えるんです。最初から、そこに書いてあったみたいに」
「その直感、大事にしなさい。たぶんそれが君の力の核心よ」
ノイの言葉に、ただ頷いた。
──これは、まだ始まりに過ぎない。
だが、確かに俺は世界の“見え方”を変えてしまった。
このスキルは、戦うための武器。
そしてそれは同時に、“誰かを守る”ための術。
「じゃあ、次は応用演習。動く敵、制限時間つき。いける?」
「……やってみます」
フィールドが再び光に包まれ、今度は複数のターゲットが展開される。
それは、昨日見たゼロスペシーズに似た異形のシルエット──
だが、演習用のホログラムに過ぎない。恐れるものじゃない。
「ミラ、いけるか?」
「演算安定。私が付いています。あなたならできる」
「よし……やろう」
構造が展開される。ラインが走る。
世界がまた、数式の姿を見せ始める。
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