プロローグ②〜0日目〜

 破滅した悪役令嬢カミラ・アルデハイト。

 その後は散々だった。


 本編のように国外追放やお家おとりつぶし、断頭台での処刑など。あることないこと容疑をかけられ罪悪人として祭り上げられている……ってことはない。


 彼女の問題はあくまでも学園内に留まっているので、その点だけ見れば良かったねと思えるけれど。


 でもそれでも悲惨なのは悲惨。


 まずアレクシスとの婚約破棄。

 そして取り巻きが寄生相手を鞍替え。


 カミラは学園内における地位を完全に失っていた。


 カミラと仲良くするとアレクシスを筆頭とする上流貴族から不況を買うことになるという真偽不明な噂話まで流れてくる始末。

 この王立学園においてアレクシスを始めとする上流貴族の不況を買うと学園には居にくくなる。

 王立学園は上流ま下級も平民さえも平等を謳っている……が、夢物語なのが実情。

 上級貴族は自分より下の立場の人間に舐められないよう大きな態度をとるし、下級貴族は将来を見越して上流貴族を持ち上げる。

 結果でき上がるのは縦社会。


 誰も近寄らないし、カミラが誰かに近付けば逃げていく。

 自業自得とはいえイジメのような状況が続いていた。


 悪役令嬢カミラに嫌がらせを受けながらも、それが彼女の仕事だからしょうがないなと割り切っていた私は……あまりにも不憫だと思っていた。

 とはいえ私にどうすることもできない。

 彼女は私のことを嫌っているし。

 私が近づいてもきっと嫌悪感を滲ませるだけだろうから。




◆◇◆◇◆◇




 悪役令嬢カミラが王立学園内で権力を失ってから、王立学園内の序列……わかりやすくいうならクラスカーストの学園全体バージョン。それが大きく変化した。

 具体的に言うなら財務大臣……公爵令嬢の娘であったカミラ・アルデハイトの地位が崖から落ちたように下落し、代わりに一人の女の子の序列が梯子をのぼるように上昇していた。まあ私なんだけども。


 好感度カンストにした攻略対象四人からは当然ながら相変わらず大きな矢印を向けられ、彼らを慕う者たちも私を無下にできなくて媚びへつらう。

 攻略対象との縁を繋ぎたい者たちが打算的に私と仲良くするパターンもある。


 結果、私の周りには人が沢山いることになる。

 友達百人できるかな? とか言ってらんない。


 「フィーナ、おーい、フィーナ?」


 ぼーっとしていると声をかけられた。ハッと顔を上げる。


 『新入生代表、トレディ――』


 今日は生徒会として入学式のお手伝いをさせられていた。大事なことなのでもう一度。させられていた。

 

 「フィーナぼーっとしてどうしたんだい? まさか寝てい――」

 「そ、そんな訳ないじゃないですか、もうやだな〜」


 アレクシスはあらぬ疑いをかけてきた。酷い。


 寝てはいない。


 自分とは関係のない入学式とか暇すぎてぼーっとしていただけ。

 なので全力で否定した。


 私への好感度はご存知の通りカンストしている。


 「アレクシス様、フィーナ様。うるさいです」


 まるで女の子みたいに長く伸ばしている白銀の髪の毛を揺らしながら、注意してくるシリス・アルフォンス。眼鏡をかけた美少年である。

 くいっと眼鏡を上げる。


 ちなみに宰相の息子である。

 堅苦しいったらありゃしない。


 攻略対象の一人でもあるので当然ながら好感度はカンストさせた。


 「いいじゃねぇーか。ちょっとうるさいくらいが式が盛り上がるってもんだぜ。だいたい隣みたいに船漕いでるよりマシだろ」


 ガッハッハッと私たちの会話よりも大きくそして豪快に笑うのは赤髪短髪が良く似合うユリウス・フランドーラ。

 近衛騎士団長の息子である。


 もちろん攻略対象の一人で好感度はカンストさせている。


 「…………」


 ユリウスの隣で腕を組みながら、こくこく眠っているのはテオ・アルバート。

 隣国の王子様で、王立学園に留学している。中性的な顔立ちをしている。髪の毛は明るめの金色。


 この王子様も攻略対象の一人で……って、もう説明しなくてもいいか。カンストしてる。


 「テオ様、テオ様……」


 声をかけると、テオはハッと起きる。


 「ふぁぁぁぁぁっ。よく寝た、寝た〜」


 悪びれもなくくーっと背を伸ばす。


 「テオ、そんな堂々と寝るものではないよ」

 「アレクシスねちねちうるさいな〜。僕たちの仕事はこの後の片付けでしょ?」

 「まあそうだけれど」

 「じゃあ、いいじゃん。寝てても」


 そんな会話をしていると、司会進行をしている教師が凄い形相でこちらを睨み、こほんとわざとらしい咳払いをした。

 私たちは静かにするしかなかった。




◆◇◆◇◆◇あとがき◆◇◆◇◆◇


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