砕ける石、映る願い ―12の誕生石と短い物語たち―
Algo Lighter アルゴライター
Prologue 「砕かれるべき煌めき」
雨上がりの深夜、孤灯だけが作業台を照らしている。
老いた私は刃こぼれしたグラインダーの唸りを止め、両手を拭った――もう石粉で白くなる皮膚など気にも留めまい。
そこに並ぶ十二の原石。ガーネットは暗い紅を潜ませ、ダイヤモンドは未だ研がれぬ氷のよう。アクアマリンは潮騒の匂いを閉じ込め、エメラルドは深い森を映す。ほかの八つも、それぞれが刻む歳月を沈黙のうちに抱いている。
石は不変だ、と人は言う。
だが私は知っている。石は砕かれるために生まれ、砕けたときこそ、本当の煌めきを放つのだと。
若き日、私は願いを叶える細工師として讃えられた。けれど願いの代償に散った命や涙を、私は幾度見送ったことか。――石は願いを叶えるのか、それとも、ただ持ち主の欲望を鏡のように映すだけなのか?
答えは未だ得られない。だから今、私は残された十二の原石に最後の問いを刻む。
ひとつ、またひとつ――語りを始めよう。火星の深紅、月面の月白、昭和の紫煙、南極の零度……
そして最後に残るターコイズ。これは奇妙に曇り、まるでまだ砕かれることを拒むかのようだ。蒼穹の欠片は私の手の震えを映し、遠い旅路の果てを示唆している。
やがて刃を振り下ろすとき、石は粉となり、願いは風に散るかもしれない。だが粉になってなお光るものがあるのなら――それこそが人間の祈りの真影だろう。
どうか耳を澄ませてほしい。
今宵、砕かれるべき煌めきが語り始める十二の物語を。
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