施餓鬼 壱棚

第1話 変夢

 凄く変な夢を見た。

 変って程度レベルではないか。悪夢ってやつか。


 そう、誰かに襲われる夢‥‥‥


 夢に現れる人や風景って、絶対に一度は過去に見た事があるものしか見ないらしいけど、僕を襲ったその犯人に全く見覚えはない。


 例えば、盲目の方も夢を見るという。しかし生まれつき全盲の人は視覚的な映像の夢ではなく、普段の日常と同じく聴覚や触覚といった視覚的映像とは別感覚での夢を見るのだと、何かの動画で見た。夢を見ると言うより、聞こえたり、感じたりってことかな。

 後天的に盲目となった人の場合でも、視覚的な情報は盲目となった以前の情報しか見ないんだという実験も成されたようで、個人差はあれど見知ったものしか夢では見ないし、感じないってことで概ね間違いないと思う。


 だから、僕を夢の中で襲った「モノ」は電車や人込みといった公共の場でなんとなぁく気になった人とか、無名のちょい役の役者的エキストラや知らない地下アイドルなどを映画かバラエティ、情報番組の街角インタビューなんかで見たのかもしれない。深夜のTVショッピングとか、ね。


 因みにその犯人像ってのは、どこか知らない学校の制服を着た女子高生。


 決死な形相と必死な動きで、一心不乱に追いかけてきては様々な得物で僕に襲い掛かってくる。逃げ切る度に、鎌、包丁、金槌や釘打ちバットと得物をわざわざ持ち変えては追いかけてくるんだ。


 えっと…確か最後は、死神が持っているような大鎌で追いかけられて、何故か今の高校ではなく小学校の非常階段のような、似た所で僕は屋上へ逃げようとしていた。しかし夢といっても一般的に学校の屋上は危険だということで、最上階から屋上への中階段では厳重に鉄格子で閉ざされている。

 夢の中でもそれは例外ではなかった。

 上部には痛々しい有刺鉄線もご丁寧に張り巡らされ、変な所が無駄にリアリティ設定なのは自分の性格が繁栄されている感じがするなぁ。


 そこで退路を閉ざされた夢の中の僕は、外枠へとよじ登って柵を越えようとしたところで、足を踏み外して‥‥‥


 凄く怖くて、そして痛い。そんな印象を残した、正に分かり易い悪夢ってやつで目が覚めた。


 だけどこんな悪夢なんかよりも、これから起床後の現実の方が正に現実離れしているなんて、この時はマジで思いもしなかった‥‥‥

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