第19話 ワルシャワダンジョン制圧
ポーランドはワルシャワに存在する地球2つ目のダンジョン。
その最下層にて今、次元の存亡を賭けた最終決戦が行われていた。
敵はダンジョンの最奥を守る守護者、ひたすらに巨大な人頭とサソリの尾を持つ獅子。
対するは、ヨーロッパ諸国を中心に地球全土より集められた最精鋭一万人。
恐らくは、ダンジョンを作りし神の想定を大きく、それはもう大きく超えた「数の暴力」に全長50メートルはあろうかというモンスターが滅多撃ちにされていた。
「へっ、魔力防御だかなんだか知らねぇが、対物ライフルでほんのちょっとでもダメージが入るならそれを死ぬまで撃てばいいだけのことよ。シュワルツェネッガーも言ってたぜ!血が出るなら殺せるはずだってなぁ!」
念入りに、いっそ執念を感じるほど堅牢に構築された防御陣地の奥から数千挺の対物ライフルが轟音を響かせる。
魔力の乗らない銃弾では、人間に例えるなら軽く針で突かれた程度のダメージしか通らない。だがしかし、それが絶え間なく、終わりなく降り注ぐならどうだろう。
「ふはは、傷を治すのに魔力とやらを消費するのは調査済みなんだぜ!その魔力がいつまで保つ?数時間か?数日か?こちとら地球全土から弾薬を集めて運んできたんだ!根比べなら確実にこっちが勝つぜ!」
ぐぉぉぉぉ!
猛攻、いや、絶えず集る羽虫の如き攻撃に業を煮やした人頭獅子が咆哮を上げながら弾丸の中を無理矢理駆ける。
しかし……。
両前足が狩り場に侵入した瞬間、地面が爆発し体勢を崩した人頭獅子が轟音を立てて倒れ込む。
「飛べねぇから地雷原は突破出来ねぇよなぁ!?図体がバカでかくても、どんだけ耐久力があっても、距離っていう最強の防御は突破できねぇんだよ!」
そもそも、人類の兵器というものは古来より如何に遠くから相手をぶん殴るか、それを研究し続けた武器群である。
その集大成たる現代兵器の前には300メートル届く火炎も、自身の周囲に無限に作り出せる毒霧も一切の意味の成さなかった。
なにせ地雷原の果ての防衛陣地は、ざっと3キロメートル先という絶望的な距離の先にあるのだから。
おそらく、ダンジョンを制作した神はこの、222階層にある最奥にこれほどの人数が攻め込むなどという想定を欠片もしていなかったのだろう。
長いダンジョンを冒険した果てにたどり着く数人の勇者と戦う「ぼくのかんがえたさいきょうのモンスター」、などという夢は人類の兵站構築能力の前に儚く消えた。
今ここにあるのは、入念な調査や開発した装備、ダンジョン内ですら快適な野営を可能にする野外生活用品、そして、数ヶ月に及ぶ探索で兵士たちのストレスを軽減する十分以上に美味い野営食によって、限りなく万全に近い状態で最下層へ到達した一万人の大部隊である。
もはや、ダンジョンの制圧は完了したも同然であった。
「ま、ここまで戦力を温存できたのはあの邪神とやらとあんたらのおかげだけどな」
指揮官であるNATO軍の高官が視線を向けるのは数十人のエルフを中心とした魔法部隊と……。現代兵器ではなく弓や槍、剣を背負う人間達、所謂探索者達だった。
というかぶっちゃけ、ダンジョン攻略の中枢たる特殊部隊の面々も対物ライフルを構えつつその背に如何にもファンタジーな刀剣類を背負っていたりする。
「一番かさばる水は魔法で賄えたし、道中のモンスター共の大半はあんたらが近接戦闘で片付けてくれた。全く、頼りになる一般人だぜ!」
長期間の行軍において、一番問題となるのは水の確保である。
この、現代ですら解決策の無い問題は、魔法部隊が水を生成する魔法という人間では不可能な手段によって解決させた。
また、現代兵器、主に銃の弱点である弾薬の消費も邪神の制作した
これにより、NATO軍を中心とした全世界同盟・ダンジョン攻略部隊は戦力を、主に弾薬を温存したまま最深部へ辿り着き、ラスボスたる人頭獅子を圧倒するに至ったのである。
そして、隊長の視線はやや場違いな白い紋付袴を着込んだ男性へと向けられる。
三十路も後半に踏み込むその男は、その細身に似合わぬ刃物のような気配を纏って佇んでいた。
「中でも、アンタはやっぱり別格だったな水流崎のダンナ。一射一殺なんて御大層な二つ名持ちを半信半疑で雇ってみれば、その二つ名に一切の偽りなしだもんなぁ」
「いえ、人類の危機に対処するためと思い張り切ってしまっただけですよ。……何より、娘に厳しく指導している弓術の師範として腑抜けた所は見せられませんからね」
年齢を感じさせない若々しい顔に狐のような笑みを浮かべ、くつくつと笑う日本人。
その優男が、跳びながら、走りながら、転がりながら撃つ弓が、どんなに素早い相手でも、どんなに頑丈な相手でも、どんなに理不尽な相手でもただの一撃で屠ってきた事実を隊長は知っている。
彼こそが、遠距離最強と名高い日本の探索者、
「だーいぶやっこさんの動きが鈍くなってきたな。そろそろ終わりだと思うが、水流崎の旦那。アンタはこれが終わったら休暇かい?」
人頭獅子の動きが鈍り、治らない傷が増えてきた様子が見えて隊長は安堵のため息を付きつつ、死ぬほど頼りになった同行者へと世間話を投げかけた。
「ええ、急いで日本に帰らなければなりませんので。なんでも、娘が隣町の会社員とスイーツ巡りに出かけるとかいう手紙を受け取りまして……。一応相手は女性だと聴いているのですが心配でして……」
「はっはっは、最強の探索者でも娘は心配か!」
「そりゃあ、娘はまだ高校生ですよ?変な輩に引っかかったら大変じゃないですか!」
娘を心配する親など、どんな立場だろうが変わらないものである。
☆★☆
それから2時間後。
全身から吹き出す血を止められなくなった人頭獅子が倒れ、動きを止めた。
……動きを止めたが、ここで油断する人間はこの部隊にはいなかった。
「さぁて、死んだふりか、第二形態に変身するのか、それとも本当に死んじまったのかはわからねぇが射的は続行だ!死体が消えない限り、あと3時間ほど撃ち続けろ!」
なにせ、巨大生物がそうそう死なないのは怪獣映画で幾度と見て知っているからだ。
誰もが油断せず、銃身の交換や人員の交代ローテーションを守りつつ動かなくなった人頭獅子へ攻撃を続ける。
人頭獅子が倒れ伏してから更に3時間後……。
生命反応を確認する魔法の射程ギリギリまで近づいたエルフが対象の死亡を確認。
その後、部隊の中より選ばれた決死隊がダンジョンの終着点へ突入。
トラップ等を警戒しつつ慎重に歩みを進め、侵略者次元との境界にある
事前調査を除けば、今回の作戦に要した日数はちょうど1年。
新宿ダンジョンのような頭のおかしいダンジョンではなく、常時侵入者を害そうと悪意を剥き出しにして襲い来る脅威に対し……。
兵站を構築し、道中の安全を確保し、目的地へ最大火力を送り届ける。
そこに英雄は必要なく、そこに無謀は存在せず。
ただ、現代戦の冷徹な現実が異世界からの侵略者を打ち砕いたという事実だけが存在した。
「ま、人間を舐めた報いだね。こんなヤバい種族相手に、正攻法で侵略しようなんて考えた時点で負けだよ。ボクみたいに、媚びたふりして面白おかしく観察して邪魔しない。そういう距離感が正解なのさ」
☆★☆★☆★☆
車両系は流石に侵入できず、迫撃砲やRPG等では携行弾数に不安があり……。
ということで、対物ライフルをありったけなんて脳筋戦法が取られました。
あとまあ、基本的にはこっそりこっそり作ってた防御陣地を「遠すぎる」として警戒しなかった人頭獅子さんサイドに負けた原因があります。
人類が222階層に侵入した時点で襲いかかってれば相当な被害が出て最悪撤退していた可能性もあります。
……おかしい、今回別のダンジョンはこんなに厳しいんだよを書く予定だったのが無双する話に。
まあ、ホテルとか無いからガチ装備じゃないと厳しかったよぐらいは伝わりそうだからええか。
ということで、次回は8月27日21時の更新予定です。
レタちゃん視点に戻って来ます。
よろしくお願いします。
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